雌雄異株性の
Phytophthora parasiticaを化学成分の明らかな寒天培地上に対峙培養すると,卵胞子が形成される。しかしながら,液体培地中,あるいは寒天の代りに超純品のアガロースを使用した場合には,ステロールを添加しても,卵胞子は極めて僅かしか形成されなかった。雌雄異株性の
P. cactorumも,寒天を添加しない同培地では卵胞子形成数が減少した。
Phytophthora属菌の有性生殖にステロール類が必要であるか否かを再評価するために,化学成分の明らかな培地を開発し供試した。この基本培地にレシチンを添加すると
P. parasiticaの卵胞子形成数は増加したが,β-サイトステロールを基本培地に20μg/ml添加しても効果がなかった。
P. cactorumの卵胞子形成量は,レシチンを添加した場合,無添加の場合の550倍以上にも達したが,これはβ-サイトステロール添加の場合の増加率よりもはるかに高かった。基本培地にレシチンを添加し,さらにβ-サイトステロールを培地1mlあたり1,5,10,20μgの濃度で添加しても,
P. parasiticaと
P. cactorumの卵胞子形成量は増加しなかった。レシチン添加基本培地上では,これら2種の菌糸生育は速やかで,V-8ジュース寒天培地上での生育とほぼ同じであったが,β-サイトステロール添加の場合には菌糸生育は遅かった。クロマトグラフィーで純化したダイズレシチンは,卵胞子形成をかなり促進させたが,卵黄から抽出したレシチンおよび2種の合成レシチンは効果がなかった。以上の結果から,ステロール類は
P. parasiticaおよび
P. cactorumの有性生殖にとって必須のものとみなされなかった。
抄録全体を表示