ジャガイモ発芽茎スライスを用い,切断傷害および疫病菌感染の細胞膜電位に対する影響を調べた。細胞膜電位(E
m)は2つの成分,即ち酸素呼吸依存性膜電位成分(E
p)および拡散膜電位成分(E
d)によって構成されている。これらの成分は通常,負の値をもつが以下の記述ではE
p, E
dの増加とは負の値の増加(電位差の増加)を示すものとする。発芽茎組織の切断によって切断表面細胞のE
mは速やかに脱分極し,直ちに回復が始まり(一過性脱分極),数時間後に一定の電位(約-120mV)に戻る。組織内部に電極を挿入して測定すると1∼1.5時間で回復する。この一過性脱分極はE
pの急激な減少と,その後に起る増加によるものであり,E
dはほとんど変化しない。しかし切断(スライス作製)数時間後にE
dが増加し始め,増加していたE
pは再び減少し,全体としてのE
mは切断数時間後から多少の変動を受けながら,少なくとも一日間おおむね一定の値を保つ。非親和性レースの感染の場合には貫入とほとんど同時に感染細胞のE
dの減少が始まり,その結果E
mは危険領域(約-50mV前後)まで脱分極する。緩慢に脱分極する場合にはE
pが始めに増加しE
dの減少を補償し,その総和としてのE
mの脱分極は遅れる。急激な脱分極ではE
pの増加による補償は見られない。直接に非親和性レースの感染を受けた細胞とその隣接非感染組織の細胞膜電位の変化の比較から,これらの細胞の間の電気的連絡(プラズモデスマータによると考えられる)は感染の比較的早い時期に遮断されると推定した。
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