2010年以降,佐賀県北部地域において,キウイフルーツ(
Actinidia chinensis ‘Hort16A’)の葉に黄色のハローを伴った斑点症状が発生して問題となっている.その発生園では,結果母枝の枯れ込みや発芽障害,新梢の萎凋・枯死も認められた.また,枝幹に形成された亀裂やかいよう症状から,菌泥や赤褐色の樹液が漏出する現象も観察された.罹病組織から分離された細菌は,淡黄色で不透明の円形集落を形成した.分離菌株を
A. chinensisに接種すると原病徴が再現され,そこからは接種菌が再分離できた.本菌はグラム陰性,好気性で1~2本の極鞭毛を有する桿菌であり,その主要な生理・生化学的性質,ITSを標的としたキウイフルーツかいよう病菌の同定用PCR検定,および,7つの必須遺伝子(
acnB,
cts,
gapA,
gyrB,
pfk,
pgiおよび
rpoD)を用いたMLSA解析に基づき,
Pseudomonas syringae pv.
actinidiaeと同定できた.したがって,本菌によって
A. chinensisに発生した症状は,発生状況や病徴も考慮することにより,「キウイフルーツかいよう病」と診断することができた.また,MLSA解析,病原性遺伝子(
argK-toxクラスター,
cfl,各種エフェクター遺伝子)を対象としたPCR検定,各種表現形質の検査の結果,本菌は
P. syringae pv.
actinidiaeにおける既知の4つのMLSAグループ(Psa1~4)のいずれとも異なる,新規のMLSAグループを構成することが判明した.そのため,本菌を「Psa5系統」と命名し,独立した系統として取り扱うことを提案したい.一方,比較のために,わが国で1984~2001年の間に分離されたキウイフルーツ(
A. deliciosa)やサルナシ(
A. arguta)のかいよう病菌50菌株も検査に供したところ,これらはいずれもPsa1系統(=ファゼオロトシキン産生系統)に属することが確認できた.以上より,わが国には,キウイフルーツやサルナシのかいよう病の病原として,Psa1系統とPsa5系統の2つの系統が分布していることが明らかとなった.
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