日本植物病理学会報
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32 巻, 1 号
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  • (第15報) 冬期低温による回復
    田浜 康夫
    1966 年 32 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    落葉性のクワである一の瀬は冬期間の自然の低温または3°Cの低温に3ヵ月間以上おくと地上部のみ罹病枝条は回復するが,常緑樹である沖繩桑(シマグワ)においてはこの現象はみられない。しかし一の瀬においても夏の期間にはこの現象がおこらない。これは一の瀬は冬期間休眠するが,沖繩桑は一年を通じ休眠しないためであると考えられる。以上のことから,桑樹内の萎縮病ウイルスは低温と休眠との相互作用によつて消失または減少するものであり,地下部は休眠しないのでウイルスの消失または減少をおこさないのでなかろうかと考えた。
  • 田中 行久, 多川 閃, 都丸 敬一
    1966 年 32 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    タバコ立枯病菌の感染機構,および本菌に対するタバコの抵抗性に関する研究を進める目的で,放射性りん(32P)による本菌の標識について検討した。
    32P標識用培地としてシュークローズ加用ジャガイモ煎汁培地(PS培地)およびブィヨン培地(B培地)を用い,これらに1μc/mlの32Pを添加し,30°Cで8∼72時間の培養によつて32Pの吸収量を比較したところ,PS培地のほうが菌の増殖および32P吸収量が良好であることを認めた。
    PS培地において,菌が32Pをとり入れる量は,培地中のりんの含量に支配され,KH2PO4を添加した量が多いほど少なく,無添加が最もすぐれていた。
    PS培地に106/ml∼108/mlの菌を接種し培養すると,菌体当りの32P吸収量は培養5時間までは,接種菌量に反比例した。実用的には107程度のものを接種し,48時間の培養によつて標識菌をうるのが効率がよい。
    32Pの添加量と吸収量の関係を10-1μc/ml∼10μc/mlの範囲で検討した結果では,菌体当りの吸収量は,32Pの添加量の増加に比例して増加した。
    標識菌の保存について培地および温度をかえて検討したところ菌体外への32Pの溶出率は,10°Cと30°Cとでは前者が低く,培地の種類ではタバコ用水耕液に浮遊した場合が最も低く,井水,PS培地の順に増加した。
    水耕液(30°C)における標識菌からの32Pの溶出率は,1日後に約1%, 3日後で2%, 5∼10日後で約3%であった。
  • 堀野 修, 赤井 重恭
    1966 年 32 巻 1 号 p. 10-13
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    イネごま葉枯病の発病とイネの栄養条件との関係,とくに侵入した菌糸の形態について観察したが,砂耕したイネ葉への本菌の侵入は98%が機動細胞から行なわれ,残りの2%は気孔孔隙から侵入した。この関係は栄養条件を異にしても変化しなかつた。
    本菌侵入の際,とくにカリ過剰区(8K, 3K)において,機動細胞中に顕著な顆粒状変性が認められ,この顆粒状物質は菌糸の周囲をとりまいて菌糸の伸長を抑えるように思われる。一方窒素,カリ欠乏区(1/4N, 1/4K)においては,この顆粒状変性の現われ方が弱く,菌糸は容易に同化組織中へ侵入していく。
    各区の感染菌糸の形態を比較すると,8K, 3K, 3N区では,菌糸は細いようであつた。
  • 松尾 卓見, 千葉 修
    1966 年 32 巻 1 号 p. 14-22
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    針葉樹稚苗立枯病の病徴には地中腐敗型・倒伏型・首腐型・根腐型があるが,Fusarium菌によるものは根腐型のものが最も多い。全国から集められた病原菌106株(12株の広葉樹苗菌を含む)はFusarium oxysporum 93株,F. solani 5株,F. roseum 4株,F. lateritium 4株に分類され,F. oxysporumが約88%を占めている。
    これらの株の中で針葉樹稚苗に対しとくに病原性のつよい13株について分化型を検討した。接種試験の結果では,F. oxysporumのいずれの株もカラマツ・アカマツ・スギ・ヒノキを枯死(または罹病)せしめたが,とくにカラマツをつよく犯すものと,カラマツと同程度またはそれ以上にスギやヒノキを犯す型の存在を認めえた。いずれも他の作物には病原性がみられない。前者をF. oxysporum f. sp. pini (Har.) Snyd. et Hans.のrace 1とし,後者をrace 2としたい。次にF. solaniの分化型はf. sp. radicicolaと同定された。この分化型は一般に不定性の病原菌である。F. roseumF. lateritiumはそれぞれ既設分化型のf. sp. cerealisまたはf. sp. mori, f. sp. cerealisとは異なつているが,病原性が不定性なので新分化型名をつけることは困難である。総じて本病の発生は環境条件などによつてかなり影響されるもので,条件によつては種々のものが病原菌となりうるもののようである。
  • 田中 彰一, 広瀬 和栄
    1966 年 32 巻 1 号 p. 23-25
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    わが国に広く栽植されているサクラ(サトザクラPrunus serrulata)の類がlittle cherry virusを保毒していることは,すでにアメリカおよびカナダにおいて発表されているが,著者らは1960年4月,国内3ヵ所において,31品種のサクラを台木として,本ウイルスの検定植物たるミザクラの一品種Samの芽接接種試験を行なつた。そして10月に至り,その病徴たるSam(接穂)の葉の早期紅葉化の程度を調査した結果,穿孔病などによる早期落葉もあつて,十分な観察調査ができなかつたが,供試品種中,嵐山,早生都,うこん,牡丹,祇女,東錦,奈良,水上,晩都,千里香,その他数品種は明らかな病徴を示した。この結果は必ずしも外国の実験例と一致しないものもあるが,この簡単な実験結果だけからみても,わが国のサクラの品種が相当広範囲にわたつてlittle cherry virusを保毒しているものと認らめれる。
  • 内藤 中人, 谷 利一
    1966 年 32 巻 1 号 p. 26-34
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    1. エンバク冠さび菌(Puccinia coronata Corda)の夏胞子を水滴に浮かべ,膨潤と小突起の経時的推移を明らかにするとともに,小突起と発芽管との識別についても検討した。
    2. 休止胞子は浮遊後約20秒で体積が約2倍になる。このときすでに,生理的作用は活性化し,内容成分も発芽を阻害しない濃度に希釈されているようである。胞子体積は約20分後に最大(約3.3倍)となるが,発芽管伸長期にはいくぶん縮小する。
    3. 浮遊後約8∼20分に発芽孔から1∼6(平均3.3)個の“ドーム型”小突起が突出する。その出現は気相がわよりも液相がわ半球において速かであるが,出現数は両半球間に差異がない。
    4. “ドーム型”小突起はほとんど形態的変化を示さず最長3μにとどまるが,出現後約30∼50分にその1個(まれに2個)だけが“円筒型”に移行して急速に伸長を開始する。“円筒型”突起は乾燥による収縮性,薬剤抵抗性の点でも“ドーム型”突起とは異なるので,“円筒型”すなわち約3μ以上の突起を真の発芽管とし,それ以下のものはその過程の一器官とみなしたい。
  • 千葉 修, 高井 省三
    1966 年 32 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    葉さび病菌(Melampsroa larici-populina)に対して感受性を異にするポプラの3クローンを使用して,接種9日後の罹病葉および無接種葉に14CO2を与え,生成される14C糖類の差異を調べた。いずれの供試葉からも,オートラジオ・クロマトグラム上で,ブドウ糖,果糖,蔗糖,およびラフィノース(?)を含む少なくとも6種の糖の存在を認めた。これら6種の糖の比放射能(cpm/mg)は,一般に罹病葉で増加することを認めたが,その増加の割合は,クローンまたは糖の種類によつてかなり異なる。
    蔗糖・ブトウ糖・果糖への14Cのとりこみは,罹病によつて,感受性クローンでは顕著に増加し,炭水化物代謝活性の高まりがなお継続されていることを示したが,抵抗性クローンでは変化は認めなかつた。
    蔗糖は他の糖とくらべて著しく高い放射能を示し,また,いずれのクローンでも罹病による増加を認めたが,このことは罹病葉における光合成能の促進を暗示する。
    一方,ブドウ糖および果糖についてみると,罹病による放射能の変化には,クローン間で著しい差異が認められた。
  • 李 始鍾, 松本 省平
    1966 年 32 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    1. 韓国で採集,分離したいもち病菌21菌株は,日本判別品種およびPi. 1, Pi. 3品種に対する病原性の差異によつて10 raceに類別することができた。これをそれぞれa, b, c, d, e, f, g, h1, h2およびh3と仮称した。
    2. a, d, fの日本判別品種に対する反応は,日本で既知のrace T-2, N-3, T-3にそれぞれ一致し,またbとh1, cとh2, eとh3はともにそれぞれN-1, N-2, N-4の反応と一致した。gは日本で既知ではあるが未登録の反応型を示した。
    3. 米国判別品種に対する反応では,b, c, dはそれぞれU.S. race 6, 2, 4に一致し,fとh1, eとh3はともにU.S. race 21, 18の反応と一致した。aは既知のU.S. raceとは異なつた反応を示した。
    4. 供試菌株の日本および米国判別品種に対する反応からみて,韓国のrace構成はかなり日本のそれに類似することが推定された。
  • アブラムシの口針そう入方法とウイルス感染部位
    吉井 甫
    1966 年 32 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    モモアカアブラムシは寄主植物(カブ)から吸汁するにあたり,篩部に向かつて細胞間に口針を差し入れその跡にしばしば分枝の多い唾液鞘を作る。唾液鞘のでき方からみると,このアブラムシはその口針を深部組織へと進めるにあたつて,口針端を自体の左右の方向に屈曲させつつその進路を求めるが縦の方向には口針を屈曲しないようである。口針の,そう入開始はほとんどすべて表皮細胞縫合部において行なわれる。
    タマネギの表皮細胞を用いて,唾液鞘の成長の順序と分枝のでき方とを観察した。
    唾液鞘は,2種類あるといわれるアブラムシの唾液のうちの凝固性の唾液によつて形成されることについて述べた。また唾液鞘の役割について考察を加えた。
    DMVのような非永続的伝搬をするウイルスでは,アブラムシは5∼20秒という短時間の吸汁で,よくウイルスを獲得する。この短時間の吸汁操作では,口針は表皮細胞層を貫通することは困難である。そこで表皮細胞縫合部にあるプラスモデスマータがウイルス伝搬の場であるといわれているが,本実験において,ウイルス感染阻止作用を有するアカザの搾汁液が,すり付け接種の場合の感染を阻止するのにはんし,アブラムシによる接種に対しては,その作用を示さないことはこの説を裏づけるものである。
  • 鈴木 喬夫, 角名 郁郎
    1966 年 32 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 1966/01/30
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    イネの最高分けつ期,穂孕期,穂揃期にそれぞれDsm製剤400u/mlを散布し,収量解析を行なつた結果,穂揃期散布は急性薬害を生じないが登熟歩合を低下させることが判明した。次にDsm製剤の主成分であるDsm硫酸塩を穂揃期イネの開花前に散布した結果,1000ppmの濃度では急性薬害および受精障害は認められなかつたが粒重は明らかに減少した。100ppmの濃度では受精,粒重に対してほとんどその影響を認めなかつた。次に籾の発育に密接に関連する炭水化物転流に対する影響についてはイネの各部位別の糖分析の結果,Dsm 1000ppm散布は無散布に比して止葉中の還元糖,全糖,殿粉含量にはほとんど差異が認められなかつたが,葉鞘および茎中ではこれらの含量が高く,籾中では還元糖,全糖含量,とくにsucrose, fructose, glucose含量が高いが,澱粉含量は低下していた。したがつて止葉と籾との間の全糖含量の差を算出してみると,その値は無散布に比べて小さく糖濃度勾配が小さいことを暗示している。Dsm 100ppm散布の場合は,上記1000ppm散布の場合のような差異はほとんど認められなかつた。
    これらの実験結果から,Dsm 1000ppmの穂揃期散布は糖の転流阻害が一要因となり,粒重の低下をきたし,減収をひきおこすものと推定される。
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