神奈川県内の温州ミカン園において,1969年10月に黒点病菌の完全時代(
Diaporthe citri (Fawc.) Wolf)を認め,この子のう殻の形成時期,条件,子のう胞子の病原力について柄胞子と比較して検討した。
1. 子のう殻は,地表に落下または樹上に残った比較的太い枯枝の木質部に形成される。子のう胞子からの分離菌は,ジャガイモ寒天培地上あるいは接種した枯枝に柄子殻を生じ,この枝を多湿条件下におくと子のう殻が形成された。子のう殻の切片を果実に接種すると黒点病斑を生じた。
2. 2~3月にせん定し,あるいは枯死した枝をミカン園内に放置すると,未熟な子のう殻が8~9月に形成され,9~10月には成熟した。地表面においた枯枝のほうが地表15, 30cmのところにおいた場合よりも子のう殻の形成時期が早く,形成量も多い。実験室内において子のう殻の形成および成熟は,95%以上の高い湿度でのみ認められた。
3. 果実に子のう胞子と柄胞子を接種した結果,両者は全く同様の発病傾向を示した。温度が高く,接種時間が長くなるにつれて発病程度が激しくなり,発病も早まる傾向が認められた。7, 8月の果実に接種したとき,両者ともほとんど同じ病徴を示したが,9, 10月に接種すると子のう胞子のほうがやや大型の円型の病斑を生じた。
ほぼ同じ胞子数を用い果実に接種した場合,子のう胞子のほうが柄胞子よりも発病程度が激しく,子のう胞子の病原力は柄胞子のそれよりも強いようである。
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