1) 本病は
A. besseyi(イネシンガレセンチュウ)が幼葉・幼花穂に外寄生しておこるイネの病害である。この線虫の寄主としてはイネのほかアワ,キビ,ノビエなどがあげられる。またイチゴなども侵される。
2) 本病で最も目だつ病徴は,被害イネの葉先きが白変することで,これは葉の抽出以前からすでにできている。止葉に最も多く,下位葉となるにつれて少ない。被害イネでは,そのほか,草たけは短かくなり,分けつは異常で,かつ増加し,葉色は濃く,茎葉の窒素含量は増加し,成熟は遅れる。被害イネの籾には褐色,黒褐色をしているものが増加し,その千粒重は減少し,玄米では不完全米の割合が増す。
3) 葉先き白変葉の発生度は,イネ品種によつて異なり,全くこれを生じないにもかかわらず,罹病し減収する品種がある。よつて本線虫病の被害度の品種間差異を比較するには,葉先き白変以外の症状を基礎とする必要がある。葉先き白変葉の発生度は,イネの栽培環境の相違によつても,また病原線虫の侵入数あるいは侵入時期等によつても異なる。
4) 花えいの内側で越冬した種籾中の線虫は,20°C前後の温度のもとで水湿を得て水中(あるいは土中)に泳ぎだし,多くは苗代期にイネ苗に到達し,葉鞘の合わせ目から葉鞘内部空所に入る。分けつ期までは線虫の数はわずかでかつ散在しているが,穂ばらみ末期から出穂期直前になると,花穂附近に多数集まつているのがみられる。出穂直後は,花えいの表面に存するものが多く,のち次第に花えい中に入り,多くは花えいの内側によじれて膠着し,乾燥状態で越冬する。この状態では1∼3年間は生存する。時として乾燥稲わらで越冬するが,土中で越冬することは認め難い。
5) 本病防除法としての温湯消毒の方法は,種籾中の線虫を完全に殺滅し得る方法であるが,消毒操作に困難な点が残つていて,その改善が望まれる。種籾を薬剤に浸漬する方法は,風呂湯浸とともに完全な殺線虫を期待することはできないが,実用上被害を無視できる範囲に防除できる。
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