(1) 小麥黒目粒は本邦各地に多少なりとも發生を見る。その混入は關東以北で生産された小麥に多く關西以南の小麥には殆ど痕跡的にしか含まれないやうである。
(2) 麥類斑點病菌は從來北海道及び臺灣に發生する事が知られてゐたが今囘北海道,鴻巣,熊本産の小麥黒目粒から分離された。その他關東地方には大麥及び小麥に斑點病が多少發生してゐるやうである。
(3) 黒目粒の病徴には數種の型がある。その中胚端の果皮及び種皮の黒褐色に變ずるものが最も多い。此の變色粒は概して健全粒より重い。少數混入せる變色萎縮粒は著しく輕い。
(4) 黒目粒の發芽は著しく阻害されない場合が多い。又之より發芽した幼植物の中約半數は根,鞘葉等に異常を呈した。
(5) 黒目粒又は夫より發芽した幼植物から
Helminthosporium sativum, Helm. teres?, Alternaria sp., Pleospora sp., Chaetomella sp., 其他が分離された。然し海外の研究結果に比すれば分離される頻度は甚だ少い。
(6) 分離菌を接種した結果,
Helminthosporium sativumは根,鞘葉,葉,頴,子實に病斑を生じ黒目粒の有力な成因の一である事を認めた。
Helm. teres に近い菌は根を侵すが穗に於ける感染は明かでない。
Alternaria sp. は僅少ではあるが黒目粒を生じた。即ち數種の菌の寄生に依つて黒目粒を生ずるが,其外に菌の寄生を認めない場合も多く,黒目粒の成因は多樣である。
(7) 斑點病菌
Helminthosporium sativumに基因する黒目粒は萎縮せるものが少くなく,品質收量の低下を來す事は明かであるが,一方夫の發芽後の幼植物或は成植物に斑點病を起す源となる恐れがあり,注意を要する病害である。其他の原因に依る黒目粒では顯著な減損を認められないが,商品的價値を損じつゝある。
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