本研究では,マイクロインジェクション法によりトマトのカルス細胞にタバコモザイクウイルス(TMV)を接種するための方法を検討した。トマト品種福寿2号の腋芽から誘導したカルスの単一細胞を,Murashige-Skoogの培地(寒天濃度,0.8%)に包埋した。それを,ペトリ皿に作製した同固形培地(寒天濃度,2%)の中央の穴(直径,3cm)に,厚さが3mm以下になるようにプレートした。包埋された細胞は,インジェクトスコープの位相差顕微鏡により生体観察され,ペトリ皿の中央部底壁面に刻入された格子線によって識別された。マイクロインジェクションには,活発に原形質流動を示す細胞を選び,滅菌ガラス針(先端口孔,0.1∼0.3μm)に無菌濾過したTMV接種液(TMV濃度,100μg/ml)を入れ,その先端部約3μmを原形質に10秒間挿入した。接種操作の成否は,ガラス針をぬいたあとにもその細胞に活発な原形質流動が認められるがどうかで判定した。なお,口径が0.5μm以上のガラス針を接種に使用した場合,そのほとんどの細胞において原質流動の停止や細胞質内容物の流出が認められ,フルオレッセイン二酢酸による生体反応も消失した。TMV接種後,細胞をすみやかに固定しフルオレッセインイソチオシアネートラベル抗体で染色した場合には,螢光化細胞はまったく認められなかったが,接種後26C, 3,000-4,000ルックスの照明下で2日間培養した場合には,接種したほとんどの細胞において顕著な螢光化が観察された。以上の結果から,本方法によってトマトのカルス細胞に効率よくTMVを接種できることが判明した。
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