1. クワの新梢および前年生枝をそれぞれ6月および3月に採取し,それらの木部切片に
Fusarium solani f. sp.
moriの分生胞子を接種して20Cに保ったところ,新梢では主として接種した場合に,また,前年生枝では接種の有無にかかわらず健全木部には認められない抗菌性物質の生成がみられた。また,前年生枝における抗菌性物質の生成は,5∼30Cの範囲では高温ほど速く,その生成は木部の褐変化に先だってみられた。
2. 6月に採取した新梢を5Cあるいは30Cに12日間保ってから木部切片とすると,その木部切片は菌を接種せずに湿室に保つだけで抗菌性物質を生成した。
3. 木部切片を55C10分または-60C60分処理するか,あるいは0.1mm以下に細断すると,抗菌性物質の生成はみられなくなった。
4. 抗菌性物質はクワ枝の病原菌を含む糸状菌7種,細菌2種に抗菌活性を示し,活性の強さは菌種によって異なった。クワ芽枯病菌
Fusarium 3種の間では,病原力と抗菌性物質に対する耐性力とは比例する傾向がみられた。
5. 抗菌性物質は,乾燥木部からメタノール,エタノール,アセトンで抽出され,水,酢酸エチル,塩化エチレン,エーテル,クロロホルム,n-ヘキサン等で抽出されなかった。
6. 本抗菌性物質は,シリカゲルTLCのエチルエーテル展開により3つに分離され,そのRf値は0.10, 0.27, 0.45であったが,主たるものは0.27のスポットであった。
7. 以上のことから,上記抗菌性物質はクワ枝の木部組織が生成するファイトアレキシンであることを論じ,またRf値0.27および0.45に相当するものは高杉ら(1978)によってoxyresveratrolおよび4'-prenyloxyresveratrolと同定されたことを述べた。
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