日本植物病理学会報
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63 巻, 1 号
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  • Gede SUASTIKA, 栗原 潤, 夏秋 啓子, 都丸 敬一
    1997 年 63 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    葉の斑紋と花弁の斑入りを示すミヤコワスレ(Gymnaster savatieri (Makino) Kitamura)から1ウイルス(M)が分離された。本ウイルスは汁液接種によって,ヒャクニチソウ,ムギワラギク,ペチュニア, Nicotiana benthamiana, N. clevelandii,およびN. occidentalisに全身感染し, Chenopodium amaranti-color, C. quinoa,ゴマおよびツルナに接種葉の局部病斑のみを現した。また,茎長培養による健全ミヤコワスレに原株と同様な病徴を示した。ウイルス粒子は680×13nmの屈曲の少ない糸状で,電気泳動による解析では,外被タンパク質は3.4×104,核酸は2.4×106の分子量を示した。精製ウイルスを家兎に免疫し, ELISA法で力価105を示す抗血清を作製した。また,本ウイルスはELISA法および免疫電子顕微鏡法によって,キクBウイルス(CVB-J),ハルジオン分離株(E)の各抗血清と陽性反応を,ジャガイモSウイルスの抗血清とは弱い陽性反応を示した。以上から本ウイルスはキクBウイルスの一系統(CVB-M)と同定された。CVB-Mはミヤコワスレに広く発生分布しているものと思われる。
  • 近藤 則夫, 児玉 不二雄, 生越 明
    1997 年 63 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    北海道内20地域から分離されたアズキ萎凋病菌を硝酸塩利用能欠損変異を利用した体細胞和合性により分類した。接種試験により病原性を確認した112菌株中, 102菌株が同一の群に属し,この群は99菌株からなるサブグループIと3菌株からなるサブグループIIに分けられた。また,この群には本菌の3つのレースすべてが含まれていた。なお,この最大の群の他に3菌株から構成される1つの小さな群,単独自己和合性の3菌株,自己非和合性の4菌株が確認された。一方,本病発生地あるいは未発生地の土壌およびアズキから分離した非病原性のFusarium oxysporum菌株についても体細胞和合性群により分類した。その結果,供試した199菌株はすべて本病の各群と和合性はなく,そのうち単独自己和合性株を除く184菌株は25群に分かれた。その25群中16群は本病発生,未発生両地域の菌株を含み,これら16群で162菌株, 81.3%を占めた。両地域における非病原性Fusarium oxysporumの体細胞和合性群の構成にはほとんど差がないと考えられた。
  • 松本 純一, 岡村 奈央子, 大木 理
    1997 年 63 巻 1 号 p. 13-15
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    大阪府堺市で採集したスターチスとルドベキアのモザイク症状株からそれぞれ2種類の小球状ウイルスが分離された。宿主範囲と病徴,アブラムシ伝搬,血清反応などを調査した。径約30nmの2分離株はキュウリなどの病徴, 2本鎖RNAの分析,血清反応よりキュウリモザイクウイルス(CMV)と同定した。径約27nmの2分離株はChenopodium quinoaなどに全身感染したこと,感染細胞内でウイルス粒子の集塊と膜状封入体が観察されたこと,血清反応よりソラマメウイルトウイルス(BBWV)と同定した。なお,これらの分離株はいずれも原寄主にモザイク症状を再現した。スターチスにおけるBBWV,ルドベキアにおけるCMVとBBWVの発生の確認はわが国最初と考えるので,病名をそれぞれスターチスウイルス病,ルドベキアウイルス病としたい。
  • 佐藤 豊三, 植松 清次, 溝口 一美, 禧久 保, 三浦 猛夫
    1997 年 63 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    千葉,宮崎両県でトルコギキョウの茎葉に淡褐色,楕円形の病斑が生じ,その上に橙色の分生子塊が形成される病害が発生し,病斑より炭疽病菌が分離された。また,千葉,鹿児島両県で採集された腐敗ビワ果実より同様の菌が分離された。分離菌をそれぞれの宿主に接種した結果,病徴が再現され接種菌が再分離された。なお,既報のビワ炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioidesを果実に接種した結果,病斑は出現したが分生子塊は形成されなかった。両分離菌は培地上の生育がやや緩慢で,コロニー裏面が赤色または暗褐色を帯びた。分生子層は剛毛を欠き,分生子は無色,単細胞,紡錘形から長楕円形,付着器は淡褐色厚膜,倒卵形ないし楕円形で全縁であった。以上の特徴より両菌をColletotrichum acutatum Simmonds ex Simmondsと同定した。トルコギキョウでは未報告の病害であるため炭疽病と命名し,ビワではC. acutatumを炭疽病の病原に加えることを提案する。
  • 中島 一雄, 林 隆治
    1997 年 63 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    タイ産サトウキビ白葉病(SCWL)ファイトプラズマのHindIII切断DNA断片S1 (約2.5kb)は, SCWLファイトプラズマの染色体外DNAに由来することが示唆されている。SlDNAの塩基配列を決定後,両末端近傍から外側に向けてプライマーを作成し, SCWLファイトプラズマ感染植物のDNAを鋳型にPCRを行った。増幅されたDNAの塩基配列を決定したところ, S1 DNAの両末端に存在するHindIII切断部位は同一であることが判明し,本ファイトプラズマの染色体外DNAは2645bpの環状DNAであること, GC含量は22.2%であることが明らかになった。このDNAに存在するORFの中で最長のものは1047bpにわたり,分子量41.5Kのタンパク質をコードしていると推定された。本タンパク質とGeminivirusのDNA複製に関与するタンパク質AL1との間に部分的な相同性がみられた。
  • 兼平 勉, 堀越 紀夫, 山北 祐子, 篠原 正行
    1997 年 63 巻 1 号 p. 26-28
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    1994~1996年,神奈川,群馬,千葉の各県で栽培されていたラナンキュラス(Ranunculus asiaticus L.)で葉化症状を示す株の発生を認めた。栄養生長期には外見健全株と差はなく,開花期以降に柱頭が突出し,花器中心部から花器全体が緑色となり,葉化症状を呈した。病株の花茎他からの試料を電子顕微鏡観察したところ,篩部維管束内にphytoplasmaが観察された。Namba et al. (1993)のプライマーセットを用い, PCR増幅したところ病株からの試料で1.3と0.75kbpのDNAが増幅された。これらのことから,本症状はphytoplasmaによるものと考え,ラナンキュラス葉化病(新称)を提案した。
  • 植原 珠樹, 荒瀬 栄, 本田 雄一, 朴 杓允, 野津 幹雄
    1997 年 63 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)が胞子発芽時に生成する毒素でイネ品種関口朝日および朝日葉を処理し,初期作用点を電子顕微鏡および画像解析装置を用いて検討した。毒素処理イネ葉細胞における初期変性は処理1時間後から観察され,ミトコンドリアの基質が消失し,クリステの含有率が低下した。しかし,このような変性ミトコンドリアの出現割合は時間の経過と共に増加することはなかった。一方,他の細胞内器官には変化はみられなかった。これらの現象は光照射の有無に関係なく関口朝日および朝日の両品種で観察された。以上の結果は,本毒素の初期作用点がミトコンドリアであること,またその変性は,本毒素による感染誘導の発現に関係した現象であることを示している。
  • 生井 恒雄, 福島 朗山, 石橋 優子, 大場 淳司, 富樫 二郎
    1997 年 63 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究はイネいもち病抵抗性品種の栽培導入に伴ういもち病罹病化の原因となる新レースの発生の場所を明らかにするため行った。新レース発生の場を抵抗性品種の穂と想定し,穂に非親和性レースの多くの菌株を接種し,発病穂からの再分離菌の病原性を検討した。在来の真性抵抗性遺伝子Pi-aおよびPi-iを持つ山形県育成の新品種である,はえぬきとどまんなかを用い,地理的に離れた8カ所の一般圃場の旧品種ササニシキから分離した非親和性レース16菌株の胞子懸濁液を穂ばらみ期に止め葉葉鞘内に注射接種して通過させた。接種した穂の発病は,供試菌株により程度の差が認められたが,すべてがいもち病感染による褐色病斑を形成し,病斑上に多量の分生胞子を形成した。それらの胞子を再分離し,レース検定をしたところ,多くの再分離菌株が,元菌の病原性と異なる変異菌であり,それらのほとんどは元菌より病原性の幅が広がる方向で変異した。いもち病真性抵抗性遺伝子に関してみると,特にPi-i, Pi-taおよびPi-zを保有する品種に対して病原性を獲得した菌株が多かったが, Pi-k, Pi-kmを持つ品種を侵す変異株もいくつか出現した。また,これらの変異菌のうち75%の菌株が新品種はえぬきおよびどまんなかに対して病原性を獲得した。これらのことから,抵抗性品種の穂は新レース発生の重要な場所の一つとなる可能性が確かめられた。
  • 森田 昭
    1997 年 63 巻 1 号 p. 44-50
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ビワ果実には苞の先端から果頂部に向かって果面にかすり状の縦すじが発症することから,栽培者間でたてぼや症と称されている症害があり,その原因を明らかにした。本症の発症果面部位を走査電顕で観察した結果,ビワサビダニ(Aceria sp.)の食害痕とともに糸状菌とくにBotrytis sp.の分生子や菌糸が多数観察された。発症果から優占的にBotrytis sp.が分離されるとともに,苞内にはビワサビダニが多数生息していた。本症状は発育途中で苞を人為的に除去した場合発症がみられなかった。ビワの苞内およびたてぼや症発症部位から分離されたBotrytis sp.をビワサビダニが生息する苞内に分生子懸濁液で注入接種するとたてぼや症が再現された。よって,たてぼや症の発現は苞内でのBotrytis sp.とビワサビダニの共存,増殖に起因すると結論される。たてぼや症の発症果面部位から分離されたBotrytis sp.は形態,培養的性質,病原性などから,ふつうの灰色かび病菌Botrytis cinerea Pers.: Fr.と同定された。
  • 山岡 裕一, 藤井 ルミ子, 飯田 一, 柿嶌 眞, 音田 堯
    1997 年 63 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    カランコエのさび病菌 (Puccinia benkei) の宿主範囲を調査するため, Kalanchoe属21種(3雑種を含む), Orosta-chys属2種, Sedum属18種の,ベンケイソウ科の3属41種の植物に本菌を接種した。その結果,Kalanchoe属植物9種, Sedum属4種およびOrostachys属1種の葉上で冬胞子堆が形成された。そのうち,シコロベンケイ (K. daigremontiana), 胡蝶の舞および胡蝶の舞錦 (K. laxiflora),ラウイ (Kalanchoe sp.),錦蝶 (K. tubiflora),不死鳥 (K. × hybrida),黒錦蝶 (K. beauverdii),唐印 (K. thyrsiflora),妙義 (K. longiflora),マルバマンネングサ (S. makinoi),ヒダカミセバヤ (S. cauticolum),およびツメレンゲ (O. japonicus)が本菌の新宿主植物として確認された。本実験で冬胞子堆の形成が認められたKalanchoe属植物は, Bryophyllum亜属のLaxiflora節とBeauverdii節, Kalan-choe亜属のThyrsiflora節とEukalanchoe節の植物に限られていた。
  • 吉田 穂積, 水野 直治, 松浦 英和
    1997 年 63 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ジャガイモそうか病に対する抑制効果について4つの異なる施肥法を淡色黒ボク土壌の圃場で検討した。硫酸アルミ区(硫酸アンモニウムと硫酸アルミニウムを作条施用し,過燐酸石灰と硫酸カリを全面全層施肥)は,高度化成区(硝酸態窒素を含む高度化成肥料の作条施肥)および単肥作条区(硫酸アンモニウム,過燐酸石灰と硫酸カリの作条施肥)に対する防除価がそれぞれ63と65で高い抑制効果を示した。改良区(硫酸アンモニウムのみを作条施肥し,過燐酸石灰と硫酸カリを全面全層施肥)は,高度化成区と単肥作条区に対する防除価がそれぞれ17と21で硫酸アルミ区に比べて小さかったが,高度化成区と単肥作条区に比べると重症罹病イモの割合が少なく,発病抑制効果を示した。感染時期と思われる6月13日において硫酸アルミ区では,置換酸度y1は8.4となり,他の試験区に比べて著しく高い値であった。改良区では,置換酸度y1は2.7で高度化成区,単肥作条区と同様に2台であったが,土壌ECは0.24mS/cmと高度化成区と単肥作条区より低い値であった。
    土壌タイプが異なる淡色黒ボク土壌と表層腐植質黒ボク土壌で改良区の発病抑制効果を検討した。改良区では両土壌とも発病抑制効果が認められたが,その程度は淡色黒ボク土壌の方が強かった。感染時期と思われる6月12日における淡色黒ボク土壌の改良区は,アルミニウムイオン濃度が慣行区(粒状配合肥料の作条施肥)に比べ低かったが,土壌ECも慣行区に比べ1/2程度となり,アルミニウムイオン活量が高まる条件であった。一方,表層腐植質黒ボク土壌の改良区はアルミニウムイオン濃度が慣行区に比べ高く,また,土壌ECも慣行区に比べて低い値であったが,淡色黒ボク土壌の改良区に比べると土壌ECが高かったため,淡色黒ボク土壌に比べてアルミニウムイオン活量の増大が少なく発病抑制効果が劣る結果になったと考えられる。
    以上の結果から,アルミニウムイオン濃度の増大を図る硫酸アルミニウムの施用とともに,ジャガイモ塊茎付近のイオン強度を低く抑えるためのリン酸とカリ肥料の全面全層施肥による施肥法の改良は,ジャガイモそうか病を抑制することが圃場試験より実証された。
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