導管細菌病としてのイネ白葉枯病の特異性を把握する目的で,単純な実験系を組み,感染葉における病原細菌の増殖と呼吸量の関係を検討した。
1. 本病細菌の強病原力系統N5824 (AI群菌),弱病原力系統N5612 (BIII群菌),およびイネに非病原性のインゲン葉焼病菌の3菌株(いずれもストレプトマイシン耐性菌)を本病感受性品種金南風および抵抗性品種アサカゼの葉に針束接種し,罹病系,抵抗系および免疫系の6組み合わせについて経時的に細菌数と呼吸量を測定した。
2. 罹病系では細菌が急速に増殖し,2葉片あたり10
6∼10
7個に達して発病するとともに,呼吸量は病徴出現期ごろから著しく増大して最高で健全葉の1.7倍まで高まった。この場合,細菌数の増加と呼吸増加率との間には+0.9以上の高い相関係数が認められた。
3. 抵抗系では細菌の増殖が緩慢で,10
5∼10
6個に達したのち定常状態となり,潜伏感染のままで終った。呼吸量は感染初期には増加せず,後期に至ってわずかに健全葉の1.3倍まで高まったに過ぎなかった。さらに,免疫系(インゲン葉焼病菌接種葉)では25日後まで10
3∼10
4個め低濃度で細菌が生存したが,組織の呼吸増加は全く認められなかった。
4. 接種点からの距離がへだたるに従い組織中の細菌数が漸減し,それに対応して組織の呼吸増加率も低下した。
5. 以上の結果から,本病感染組織の呼吸量の変動は組織内で増殖した細菌数と密接に関連することが明らかとなった。
6. さらに,本細菌が
in vitroで好適な基質を消費して示した最大呼吸量から組織中での細菌自身の呼吸量を推定した結果,感染葉にみられた呼吸増加は主として宿主組織の呼吸増大を反映しているものと推察した。
7. 今後,さらに高度抵抗性品種あるいは病原性最強の系統をも組み合わせた実験系について検討の予定である。
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