日本植物病理学会報
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82 巻, 2 号
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原著
  • 岡田 知之, 下元 祥史
    2016 年 82 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/08
    ジャーナル フリー
    2011年に高知県ナス圃場から単胞子分離されたすすかび病菌のボスカリドに対する感受性を薬剤添加培地にて調べたところ,EC50が16を超える菌株が25菌株中6菌株検出され,接種検定により耐性菌であることを確認した.それらはSdhB遺伝子に共通の遺伝子変異を持ち,この遺伝子変異はPCR-RFLP法で検出可能であった.ボスカリドと同じSDHI剤であるペンチオピラドは今回発生したボスカリド耐性菌に対し,生物検定で防除効果が認められ,交叉性を示さなかった.
  • 佐藤 衛, 福田 直子
    2016 年 82 巻 2 号 p. 93-100
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/08
    ジャーナル フリー
    トルコギキョウの水耕栽培の安定生産を目的とし,病害の発生を抑え,なおかつ栽培終了時において,処理した薬剤の養液内における薬効成分が農薬の登録保留基準を下回る施用方法の検討・試験を行った.その結果,アゾキシストロビン・メタラキシルM粒剤0.25 g/株および0.5 g/株を定植後まもなく株元に処理することにより,根腐病の発生を抑制することが可能となり,なおかつ栽培終了時の養液において,農薬の登録保留基準値を下回る薬効成分が検出されるに留まった.同様の試験を2カ年に渡り実施した結果,同様の病害防除効果および農薬の保留基準値以下の検出となり,アゾキシストロビン・メタラキシルM粒剤1回処理が養液栽培におけるトルコギキョウ根腐病の防除に有用であることが明らかとなった.
  • 澤田 宏之, 近藤 賢一, 中畝 良二
    2016 年 82 巻 2 号 p. 101-115
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/08
    ジャーナル フリー
    長野県中部地域のキウイフルーツ栽培園において,Actinidia deliciosa‘ヘイワード’の主幹,主枝,結果母枝にかいよう病様の症状(かいよう病斑からの樹液の漏出,剪定切り口からの菌泥の溢出,樹皮下の組織の褐変など)が発生していたので,2015年4月にその罹病部位から13菌株の細菌を分離した上で,病原学的解析を行った.これらを‘ヘイワード’に接種するとかいよう病様の症状が再現され,そこからは接種菌が再分離できた.本菌はグラム陰性,好気性で1~2本の極鞭毛を有する桿菌であり,淡黄色の円形集落を形成した.さらに,その主要な生理・生化学的性質,ITS,hopZ3hopO1-2を標的としたPCR検定,および7つの必須遺伝子(acnB, cts, gapA, gyrB, pfk, pgi, rpoD)を用いたMultiLocus Sequence Analysis(MLSA)に基づき,本菌をPseudomonas syringae pv. actinidiaeと同定することができた.ただし,API 20NEによる表現形質の検査,hopH3acnBhopH1hopZ5等を標的としたPCR検定,およびMLSA解析の結果を精査すると,本菌はP. syringae pv. actinidiaeにおける既知の4つのbiovar(biovar 1, 2, 3, 5)とは異なることが明らかとなった.しかも,本菌はファゼオロトキシンとコロナチンをいずれも産生するという,これまで植物病原細菌では知られていなかった特異な性質を有していることが生物検定によって確認できた.以上より,本菌を「biovar 6」と命名し,P. syringae pv. actinidiaeにおける5つ目のbiovarとして取り扱うことを提案したい.本研究によって,わが国にはキウイフルーツかいよう病の病原として,biovar 1,biovar 3,biovar 5,biovar 6の4つが分布していることが明らかとなった.また,biovar 6は,biovar 1やbiovar 3ときわめて近縁であることから,これらの起源や成り立ちを検討する際の比較材料としても重要と思われる.なお,biovar 6がファゼオロトキシンとコロナチンの生合成遺伝子クラスターを保持していることから,これらの遺伝子をbiovar 1やbiovar 2の検出・判別の指標として利用するのは適切ではないことが明らかとなった.
  • 澤田 宏之, 須崎 浩一, 川口 章
    2016 年 82 巻 2 号 p. 116-124
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/08
    ジャーナル フリー
    Rhizobium属の既知菌種のうち,植物病原菌をメンバーとして含んでいるのは以下の6つである:R. radiobacter species complex(R. nepotumR. pusenseを含む),R. rhizogenesR. vitisR. rubiR. larrymooreiR. skierniewicense.これら6菌種のメンバーは,病原性に関する状態(pathogenic state)に基づいて,「根頭がんしゅ病菌(Tiプラスミド保有株),毛根病菌(Riプラスミド保有株),非病原菌(いずれの病原性プラスミドも保持していない株)」の3つに類別できる.本研究では,コロニーダイレクトのもとで実施するマルチプレックスPCRを利用して,被検菌における病原性プラスミドの保有状況を明らかにするための手法(プラスミド型別法)の開発を試みた.そのためにまず,virCオペロンを標的とした「病原性プラスミドのユニバーサルプライマー」と,rolCを標的とした「Riプラスミド特異的プライマー」を設計した.また,16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を内在性コントロール遺伝子(内部標準)として選び,それを標的としたプライマーセットを反応に組み込むことによって,PCRの成否が容易に判定できるようにした.そして,これらを組み合わせて実験系を構築した上で,その反応条件を至適化した.最後に,この実験系のプラスミド型別法としての信頼性を証明するために,合計383株の植物病原性Rhizobium属細菌や近縁菌を供試して検証実験を行った.その結果,供試したすべての病原菌から,内部標準としての16S rDNA由来のシグナル(780~784 bp)とともに,各pathogenic stateに特異的な以下の増幅産物が安定して得られた:根頭がんしゅ病菌(virC1由来の278 bp);毛根病菌(virC1由来の278 bpとrolC由来の438 bp).一方,非病原菌からは16S rDNA由来のシグナルのみが認められた.以上より,本法は植物病原性Rhizobium属細菌を標的とした簡便・迅速なプラスミド型別法としてきわめて実用性が高く,根頭がんしゅ病や毛根病を対象とした研究や防除の現場において,作業効率の向上に大きく貢献すると考えられた.
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