非病原性の
Pythium oligandrum(PO)は根圏に生息して植物の防御反応を活性化し病害抵抗性反応を誘導することがテンサイ,トマト,ジャガイモおよびシロイヌナズナなどの双子葉植物で明らかにされている.本研究では,イネもみ枯細菌病菌(
Burkholderia glumae)によって引き起こされる苗腐敗症に対するPO処理の効果と,PO処理によるイネの防御応答について解析した.その結果,イネもみ枯細菌病菌を減圧接種した種子による苗腐敗症の発病は,PO卵胞子懸濁液の催芽時の浸種処理で抑制された.一方,PO卵胞子懸濁液を浸種処理した催芽種子の発芽後の幼芽では,防御関連遺伝子である
OsPR10a/PBZ1の発現量が増加した.イネ苗の根にPO卵胞子懸濁液を浸漬処理した場合でも,根で
OsPR10a/PBZ1の発現誘導が確認された.また,同じくPO処理したイネ苗の根では,ジャスモン酸(JA)応答性の
OsPR10bや
OsPR6遺伝子の発現も誘導されていた.さらに,POのエリシターである細胞壁タンパク質画分(CWP)を処理したイネ苗の根における網羅的な遺伝子発現変動解析から,JA応答性の防御関連遺伝子や,JAの生合成に作用するアレンオキシド合成酵素やリポキシゲナーゼ遺伝子などの発現量の増加が認められた.以上の結果から,POは,イネにおいてもJAシグナル伝達系を介した防御反応機構を活性化するとともに,イネもみ枯細菌病菌に対する抵抗性を誘導するものと推察された.
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