1) 1967年7月,埼玉県北葛飾郡幸手町のアスター畑で鮮明な黄色輪紋症状を示す株の多発がみられた。病徴はフロリダでAndersonがaster ringspot virusとして報告したものに一致していた。
2) アスター病株から汁液接種によって1種のウイルスが分離され,これをアスターに接種して黄色輪紋の病徴が再現できた。
3) ウイルスの形態は短桿状で長さ170-180mμと70-80mμの長短2種のウイルス粒子がみられた。寄生性はアスター,タバコ,キュウリ,ヘラオオバコ,トレニア,インゲン,ササゲ,ホウレンソウなどにみられ,それらに発現する病徴はtobacco rattle virusについての多くのこれまでの報告に一致した。汁液接種によって容易に伝搬され,土壌伝染も認められたが,アブラムシ伝染,種子伝染は認められなかった。ウイルスの耐熱性70-75℃,耐希釈性10
-6付近,耐保存性は汁液(20℃)で91-98日,乾燥葉で170-180日であった。これら諸性質から病原ウイルスはtobacco rattle virusと同定され,本病をアスター黄色輪紋病と呼ぶことにした。
4) アスターから分離されたTRV-Aと,さきに都丸らによってタバコから分離されたTRVのHSN株とを数種植物に汁液接種して,その寄生性,病徴などを比較した。その寄生性は両者間に差がみられなかったが,アスター上における病徴に差異がみられた。すなわちアスター分離株では鮮明な黄色輪紋を生じたが,HSN株ではtop necrosis,葉脈えそを生じた。
5) アスター黄色輪紋病発生土壌中には
Trichodorus属の線虫が多数確認され,その種類は
Trichodorus minor Colbran, 1956であった。
6) 発病地土壌から分離した
T. minorを用いて,TRV-Aの伝搬試験を行なったところ,接種植物225本中20本が発病した。その伝搬率は高くはないが,植物ウイルスが線虫によって伝搬される事実がわが国で初めて確認された。
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