冠さび病に罹病したイタリアンライグラスの葉の化学成分が罹病程度(健全:0,葉面積に対する胞子層の占める面積割合によってI∼Vまで5段階)によってどのように変化するかを試験した。
1. 乾物率は0∼IVまでは18%前後で大差なかったが,Vは36%で高い値を示した。
2. 健全葉が緑色で罹病程度が進むにつれて緑色が減少しVでは茶褐色を呈した。色調測定でも罹病程度の進展にともない極大吸収を示す波長における吸光度が低下した。
3. 細胞膜物質と細胞内物質との比率は罹病程度の進んだものほど細胞内物質の割合が低下し0とVではその割合が逆転した。
4. 可溶性糖類含量は罹病程度の進んだものほど少なく,Vは0の5分の1であった。
5. 粗蛋白質および純蛋白質の量は罹病程度が進むにつれて減少し,Vでは0の約半分であった。
6. セルローズ含量も罹病程度が進むにつれて増加が認められ,とくに消化されないセルローズの量が増加する傾向が認められた。
7. リグニンの含量も罹病程度の進んだものほど増加する傾向を認めた。
8. 粗灰分の含量もリグニンと同様に罹病程度の進んだものほど増加の傾向を認めた。
9. 無機成分では,とくに粗硅酸の含量が罹病程度の進んだものほど多く,Vは0の4倍の値を示した。
10. その他の無機成分では,リン,カリウム,マグネシウムは罹病程度に関係なくほぼ一定していたが,ナトリウムでは罹病程度の進んだものほど少なく,カルシウムでは逆の傾向が認められた。
このように病気の進展にともないその値がしだいに減少するものは,色調における吸収波長,細胞内物質,可溶性糖類,蛋白質,ナトリウム等であり,逆に増加するものには,セルローズ,リグニン,粗灰分,粗硅酸,カルシウム等である。乾物重はVを除いて,またリン,カリウム,マグネシウムでは一定であった。このように罹病程度が進むにつれて細胞内物質の割合が減少し,家畜に必要な可溶性糖類,粗蛋白質,純蛋白質の減少が見られ,逆にセルローズやリグニン,粗灰分,粗硅酸の割合が増加しており,これが消化率の低下とあいまって飼料としての価値を減少させていることがうかがわれた。
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