日本植物病理学会報
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85 巻, 4 号
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原著
  • 斉藤 千温, 伊代住 浩幸, 鈴木 幹彦, 高橋 冬実, 寺田 彩華, 牧田 英一
    2019 年 85 巻 4 号 p. 325-333
    発行日: 2019/11/25
    公開日: 2019/12/24
    ジャーナル フリー

    Sclerotium cepivorum Berkleyが引き起こすネギ黒腐菌核病(white rot)の防除のため,著者らは,3種の対策,すなわち,i)土壌中の生存菌核数の十分な低減,ii)ネギ根圏で発芽した菌核の効果的な殺菌,iii)土寄せで作条に運び込まれる菌核の病原力の低減を組み合わせた総合防除体系を構築した.実証試験は,現地の重汚染圃場で実施した.対策i)として,ダゾメット粉粒剤による土壌消毒を行った.その際のメチルイソチアネートガスの封じ込め方法は,降雨を利用した水封(水封区)もしくは,ビニール被覆(被覆区)とした.その結果,無処理で風乾土100 gあたりの生存菌核数の平均が35.4個,平均生存率75.8%の条件で,被覆区(0.5個,0.9%)は水封区(7.1個,25.6%)に比べ,より効果的であった.処理間の生存菌核数の差は,収穫時の発病程度の明瞭な差として現れた(無処理区の発病株率96.0%,ダゾメット被覆区24.2%,ダゾメット水封区97.9%).定植時のシメコナゾール粒剤処理と土寄せ前のペンチオピラド水和剤灌注処理を行う対策ii)と,低温期の複数回の石灰施用行う対策iii)を組み合わせて実施したところ,効果的に黒腐菌核病被害を軽減した(発病株率15.3%).さらに,被覆を行う対策i)と対策ii)および対策iii)を体系的に実施することで,黒腐菌核病はほぼ完全に抑制され(発病株率1.6%),本総合防除体系の有効性が確認された.今後,本防除体系をタイプが異なる複数の汚染圃場に適用し,総合防除後の防除労力の段階的な低減の可能性について検証する必要がある.

  • 小幡 善也, 横山 綾, 泉津 弘佑, 入江 俊一, 鈴木 一実
    2019 年 85 巻 4 号 p. 334-344
    発行日: 2019/11/25
    公開日: 2019/12/24
    ジャーナル フリー

    ホメオボックスはホメオドメインと呼ばれる180 bpから成るDNA結合モチーフを有し,転写制御因子をコードする.そして,菌類や他の真核生物では,形態形成に重要な役割を持つことが知られている.本研究では,キュウリ炭疽病の病原体であるウリ類炭疽病菌に保存されている10個のホメオボックスの内の1つであるCoHox2の機能を明らかにした.CoHox2遺伝子を欠損したCoHox2遺伝子破壊株は野生株と比較し,分生胞子形成数が約30%に減少していた.また,CoHox2遺伝子破壊株により形成された分生胞子の形態は野生株104-Tと比較して,大きな差異を示さなかった.さらに,CoHox2遺伝子破壊株はガラス面上で正常に付着器を形成し,宿主植物であるキュウリに病気を引き起こした.また,走査型電子顕微鏡を用いた観察により,剛毛形成数が増加していることが明らかとなった.以上の結果より,CoHox2が分生胞子形成を正に制御し,剛毛形成を負に制御することが示唆された.野生株を用いた顕微鏡観察により,培養7日後に剛毛が形成する分生胞子が細胞核を有することと,培養13日後に剛毛が発芽し,透明な菌糸を伸長していることが明らかとなった.以上の結果より,剛毛が培養初期に細胞核を有する分生胞子を形成する機能と培養後期に菌糸を伸長させる機能を持つことが考えられた.

  • 澤岻 哲也, 與儀 喜代政, 仲村 昌剛, 松村 まさと
    2019 年 85 巻 4 号 p. 345-352
    発行日: 2019/11/25
    公開日: 2019/12/24
    ジャーナル フリー

    我が国のマンゴーの主要品種‘アーウィン’は炭疽病に弱いため,収穫までに年数回の薬剤防除が行われるが,労力・コストの負担軽減と安心・安全な食料要求の高まりから,炭疽病に強い抵抗性品種の開発が求められている.そこで,本研究では簡易で正確な本病の病原性検定法を確立し,本検定法を用いたマンゴー遺伝資源の炭疽病抵抗性を評価し,本病に強い育種素材の選抜を行った.その結果,マンゴー未硬化葉(SPAD値:9.5~24.3)を接種葉とし,病原菌接種時の分生子濃度は104個/ml以上,培養温度を25~30°Cに設定して,暗条件下で5日間培養することで,安定した病斑の形成を示した.そこで,遺伝資源27品種について本検定法と果実接種による評価を比較した結果,両接種間の発病度に正の相関が認められ,本病に強い抵抗性品種として‘ゴールデンナゲット’が明らかになった.以上より,本検定法を用いることでマンゴーの遺伝資源や雑種後代の中から効率よく炭疽病抵抗性を評価・選抜できると考えられる.

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