ナシ黒斑病菌
Alternaria alternata (Fr.) Keissler Japanese pear pathotypeは,酢酸から1, 8-ジヒドロキシナフタレンを経て黒色メラニンを生産することが知られている。本菌の分生胞子に突然変異原としてN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンを処理し,菌叢色が親株と異なる突然変異株AKT88-1 (Alm
-), AKT88-2 (Brm1
-)およびAKT88-3 (Brm2
-)を選抜した。親株の菌叢が黒色であるのに対して,突然変異株はそれぞれ白色,淡褐色および褐色の菌叢を形成した。菌体中のメラニン生合成中間代謝物の蓄積について調査した結果,AKT88-2株の菌体にはサイタロンが,AKT88-3株の菌体には1, 3, 8-トリヒドロキシナフタレン(1, 3, 8-THN)の酸化物2-ヒドロキシジュグロン(2-HJ)がそれぞれ蓄積していた。AKT88-1株の菌体には,1, 3, 8-THN, 2-HJだけでなく1, 3, 6, 8-テトラヒドロキシナフタレン(1, 3, 6, 8-THN)の酸化物フラビオリンの蓄積も検出できなかった。一方,AKT88-1株はサイタロン添加培地で培養した場合,菌体のメラニン化が誘起された。以上の結果から,突然変異株のメラニン生合成系における欠損部位は,AKT88-1株が酢酸から1, 3, 6, 8-THN, AKT88-2株がサイタロンから1, 3, 8-THN, AKT88-3株が1, 3, 8-THNからバーメロンをそれぞれ合成する段階であると推定した。メラニン欠損変異株の二十世紀ナシ葉に対する病斑形成能力は,親株と同程度であった。また,メラニン生合成阻害剤トリシクラゾールは,本病原胞子の二十世紀ナシ葉に対する病斑形成能力やセロハン膜における侵入行動には全く影響しなかった。以上の結果,メラニンはナシ黒斑病菌の病原性発現における必須因子でないと考えられる。
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