2008年6月,山梨県甲州市でブドウ(ブドウ科ブドウ属ヨーロッパブドウ=
Vitis vinifera )の葉および果房に斑点症状が発生し,2009年には南アルプス市にも発生が拡大した.葉では葉脈に囲まれた境界の明瞭な角斑が形成され,始めは黄白色~黄緑色で水浸状を呈するが,のちに褐色~黒褐色の壊死斑となった.幼果期の果粒や小果梗にも,表皮が裂開して中央部がやや陥没した黒褐色~黒色の楕円形壊死斑が認められた.品種別では‘甲斐路’,‘ロザリオビアンコ’で本症状の発生が多い.罹病組織からは黄色,不透明,円形,中高な粘稠集落を形成する細菌が分離された.ブドウに噴霧接種すると葉に暗緑色の水浸状斑点が形成され,病斑から接種菌が再分離された.本菌はグラム陰性,好気性で1本の極べん毛を有する桿菌であり,その主要な生理・生化学的性質や16S rDNAの分子系統解析における位置づけは
Xanthomonas 属細菌に一致した.
gyrB あるいはrep-PCRに基づく系統解析において,本菌は
X. arboricola の既知pathovarとともに明瞭なクレードを形成して独立した.以上より本菌を
Xanthomonas arboricola Vauterin, Hoste, Kersters and Swings 1995と同定した.
X. arboricola によるブドウの病害はこれまでに報告がないため,本病を新病害としてブドウ斑点細菌病(Bacterial spot of grapevine)と呼称したい.ブドウに対する接種試験,
gyrB やrep-PCRに基づく系統解析,および発生調査などの結果から,本菌は日和見感染菌的性質の強い弱病原菌であり,遺伝的に固定されておらず,多型を内包した状態であることが示唆された.
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