1. 高知縣産促成栽培の茄子果は輸送中に綿疫病菌の侵害に因り,箱内の全果腐敗し來ることあり。又本病被害茄子果は京都市内青果小賣商人の店頭に見らるること稀ならず。
2. 本病病原菌はその形態により,大正3年臺灣に於て始めて命名發表せられたる
Phytophthora Melongenae SAWADAと同定し得たるも,海外に於ては該菌を
P. parasitica DASTURに外ならずと稱するもの多く,又LEONIANは
P. Melongenae SAWADAも
P. parasitica DASTURも共に
P. palmivora BUTLERに包括せらる可きものなることを主張し居れり。
3.本病病原菌を2%蔗糖加馬鈴薯煎汁寒天培養基に純粹培養せしに,約3個月經過後多數卵胞子の形成を見たり。寄主上に於ては病勢亢進して液化せる果肉内に卵胞子の形成を見たり。
4.本病病原菌の發育に對する最適温度は恐らく28℃と32℃の中間に存在し, 32℃の方に幾分近きものと推定せり。限界低温度は3℃より高く,限界高温度は36℃より高く, 40℃より低きものと認定し得たるを以て,本病病原菌は割合好高温性のものと稱し得べし。
5. 本病病原菌を接種したる茄子果の病勢進展は28℃に貯藏したる場合に最も速かにして, 32℃, 24℃の順に低下せり。接種後5°乃至6℃に貯藏せしものは, 15日經過せるも何等の異状を呈さざりき。
6. 本病病原菌の發育に對する最適水素イオン濃度はpH 6.0前後にして, pH 3.0及びpH 8.5にて全然菌叢の發育を認めず。
7. 本病病原菌の分生胞子形成は貯藏中の空氣濕度と密接なる關係あるものにして,空氣關係濕度95%以上にては一般に空中菌絲の發育良好にして分生胞子の形成少なく, 85%以下にては反對に分生胞子形成旺盛なり。
8.接種試驗によれば本病病原菌は無傷の茄子果に病原性を示したるも,蕃茄果,蕃椒果及び馬鈴薯塊莖に對しては表面に傷ある時にのみ病原性を示せり。茄子幼苗に對しては強き病原性を示し立枯を原因す。
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