Fusarium oxysporumの硝酸塩利用能欠損変異菌株(
nit変異菌株)と野生菌株の諸性質を,ダイコン萎黄病菌,ホウレンソウ萎ちょう病菌および非病原性
F. oxysporum (S-52菌)を用いて比較した。ショ糖加用ジャガイモ煎汁寒天(PSA)培地上における生育は,供試した変異株計22菌株の多くは野生菌株と同様であったが,明らかに生育の遅いホウレンソウ萎ちょう病菌変異株が2菌株見いだされた。PS液体培地および滅菌土壌中の増殖は
nit変異菌株と野生菌株で差が認められなかった。ベノミルに感受性のダイコン萎黄病菌から作出した変異株24菌株はいずれもベノミル感受性であった。病原性については,供試した43の変異菌株のうち,ホウレンソウ萎ちょう病菌の2変異菌株は明らかに弱かった。
F. oxysporumの10分化型から作出した
nit変異株計195菌株をPSA斜面培地で室温で約3年間継代培養により保存した結果,多くの菌株はもとの表現型を保持していたが,21菌株(10.8%)では硝酸塩利用能の回復が見られた。ポット内の育苗培土に接種したダイコン萎黄病菌の変異株を,約3年4ヵ月後に再分離して表現型を接種前と比較した結果,表現型の変化は認められなかった。また,土壌中の生存菌密度も野生菌株とほぼ同等であった。
nit変異菌株を接種した罹病植物体から再分離した場合にも,表現型の変化は見られなかった。以上のように,
nit変異菌株の中には病原性の弱くなったものや形質の不安定なものが存在するが,多くの
nit変異菌株は野生菌株と同様の性質を有し,長期間安定であるため,追跡マーカーとして利用できると考えられた。
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