1. 本研究は寒天培養基上に發育せしめたる, 16種の木材腐朽菌類に對する,椈材片の抵抗力を24℃に調節したる定温室内に於て,比較したるものにして,實驗期間は320日なり。
2. 本實驗の結果は,自然状態に於ける椈材の耐朽性に關する概念を與ふるに足るものなれども,眞の耐朽性を示すものとは認め難く,筆者等はHUBERTに從ひ,本實驗を比較抵抗力の試驗と稱せり。
3. 培養罎中の供試菌發育状態を比較したるに,カハヲソタケ,ヒイロタケ,アラゲカハラタケ,ホウロクタケ及びツガノサルノコシカケは菌絲の發育良好にして,マンネンタケ,オニカハヲソタケ,ニクウスバタケ,ミヤマウロコタケ,アヅマタケ,カタウロコタケ,カンバタケ,カイメンタケは發育不良,コフキタケ,ベツコウタケ,マスタケは發育中位なりき。
4. カハヲソタケ,コフキタケ,アヅマタケ,マンネンタケ及びオニカハヲソタケは,培養罎の硝子面に接觸したる菌絲が明瞭なる帯線を形成せり。
5. 供試菌中椈材を最も激しく侵害し,乾燥重量の最大減少率を示さしめたるは,カハヲソタケにして,平均60.92%の減少なり。反之,最も侵害力弱かりしは.カタウロコタケなりしも,尚乾燥重量平均11.15%の減少を示さしめたり。
6. 肉眼觀察に基く菌絲發育程度と,供試材の重量減少率とは常に必ずしも,平行關係を示すものにあらざるが如し。
7. カハヲソタケを例外とし,材に斑點性白色朽を基因する菌は一般に菌絲發育不良にして,供試材の平均重量減少率も亦低き傾向ありしも,材の内部に深く,所謂Pocketsの形成を示せり。
8. 實驗温度が菌の發育適温に比し,特に著しく低しと見らるるヒイロタケ及びアラゲカハラタケに於ては,供試材の表面激しく侵され,重量も亦相當に減少したるも,斷面を檢するに,中央部に尚殆ど健全と思はるる部分を殘存せり。
9. 本實驗により,自然界に於て,通常針葉樹材を侵害する菌も亦,環境如何によりては,濶葉樹材を侵害することあるべき旨を暗示せられたり。
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