レジームシフトの影響を考慮した年齢構成余剰生産モデルを用い,太平洋北部水域におけるサメガレイの資源量を推定した。データは1971-2020年の漁獲量,1972-2019年の資源量指数,2008-2020年の体長組成,及び生物特性値である。推定値の誤差評価はBootstrap法で行った。Base caseの推定結果では1971年の親魚量は72.3千トン(CI 56.9-87.7千トン),2020年のそれは9.3千トン(6.2-12.4千トン)であった。結果の解釈やモデル改良などについて議論した。
ランダムな確率変動を含むBeverton and Holtの再生産曲線とマルコフ過程における定常分布の条件式から,スルメイカの加入量の定常分布が理論的に計算できる。この理論分布を用いて,MSYの値,定常状態における加入量調査に基づくHCRの管理効果を計算した。本論文のHCRよってMSYが実現できる可能性が示唆された。理論式を利用する利点やモデルの改善などについて議論した。
長崎県野母町地先の藻場の変化を把握するため,2010年から2019年にかけて海藻と水温のモニタリングを行った。調査開始時はクロメ,ノコギリモク及びアントクメなどの大型海藻が優占したが,2013年12月までにクロメとノコギリモクが消失した。アントクメは2016年に急激に減少し,それ以降,小型海藻が優占する藻場となった。16年は春の平均水温が最も高く,アントクメには魚類の食痕があったことから,水温上昇に伴う魚類の採食圧とアントクメの生産力のバランスの変化がアントクメの衰退要因になった可能性がある。
サクラマス幼魚を給餌または絶食飼育したところ,給餌魚に比べて絶食魚では,肝臓の脂肪酸合成系酵素活性と筋肉の中性脂質含量は低く,肝臓のアミノ酸異化酵素と筋肉の酸性プロテアーゼの活性は高かった。動橋川に秋放流した幼魚を捕獲して調べたところ,放流後,脂肪酸合成系酵素活性と中性脂質含量は低下し,アミノ酸異化酵素と酸性プロテアーゼの活性は上昇した。放流幼魚は脂肪酸合成を抑制し,魚体のタンパク質と脂質を分解利用するなど絶食時に似た代謝を営んでおり,栄養状態がかなり悪化していたと考えられた。
禁漁区の設定による渓流魚の増殖効果の定量化のため,環境条件が異なる複数の河川において調査を行い,禁漁区設定の有無,環境条件および渓流魚の生息密度に関するデータを収集した。傾向スコアによる逆確率重み付け推定により環境条件を調整することで生息密度に対する禁漁区設定の平均処置効果(ATE)を推定した。その結果,渓流魚の未成熟魚に対する禁漁区設定のATEは有意ではなかったが,成熟魚に対する禁漁区設定のATEは有意であり,禁漁区の設定は成熟魚の生息密度を平均2.18倍増加させると推定された。
長期モニタリングデータを用いて,震災前後で仙台湾の水質環境(水温,塩分,DO,栄養塩類)に変化が生じているか検討した。震災後,震災前と比べ,栄養塩類とDOは低下し,水温と塩分は上昇する傾向が認められた。震災後の栄養塩類(DINとDIP)の減少は底層で大きく,春季に栄養塩に富む親潮系水の波及が減少した一方で栄養塩が少ない黒潮系水が波及するようになった影響や,震災で生じた底質の変化による夏季から秋季の底質からの栄養塩類の溶出の減少が要因として考えられた。
鳥取県千代川水系におけるカジカ種群の分布域と回遊を明らかにするため,水系内4水域で採集したカジカの形態学的観察を行い,耳石Sr:Ca比分析により経験塩分履歴を追跡した。胸鰭および臀鰭軟条数は,水系内最大規模の堰堤である大口堰より下流で採集した個体は中卵型,堰より上流の3水域で採集した個体は大卵型の値と近かった。さらに耳石Sr:Ca比は下流の個体は両側回遊型,上流の個体は陸封型の変動パターンを示した。当該堰が形態や生活史の異なる2型の分布域を分ける要因として強く影響している可能性が示唆された。
三重県および宮城県で天然採苗されたマガキを三重県的矢湾で15か月間垂下養殖し,殻高と殻高/殻長の比率(殻高/殻長比)の関係を調査した。三重および宮城種苗の殻高/殻長比は,それぞれ0.91-2.52,0.87-3.18の範囲にあった。両種苗とも殻高の成長に伴い殻高/殻長比は大きくなる傾向を示した。また殻高と殻高/殻長比の関係式を得た。貝殻の外観が重要な品質要素となる殻付カキにおいて,最も評価の高い殻高/殻長比が1.5(±0.05)となる個体は,殻高が60-70 mm前後で出現率が高いことが分かった。