アミメノコギリガザミScylla serrataを対象として,流体解析と行動モデルを用いて,沈降死リスクや摂餌機会を評価可能なシミュレーションモデルを構築し,実際の種苗生産水槽へと適用することで,流場が飼育へ与える影響を評価した。その結果,摂餌には穏やかな流場の方が適しているのに対して,沈降の防除のためには,幼生のステージごとに適切な流場が変化することが示された。今後は同モデルを用いることで,飼育試験によらずに定量的に沈降死リスクや摂餌機会を評価でき,幼生の生残率向上に繋がると期待できる。
播磨灘において2008–2020年の12月上旬から1月上旬にかけて,産卵期のイカナゴを空釣り漕ぎ漁具(文鎮漕ぎ)により採集し,産卵集団としての個体群の繁殖特性を調べた。産卵盛期における産卵親魚密度および産卵量指数は,2010年以降低下し,特に産卵量指数は2016年以降極めて低く,近年の播磨灘におけるイカナゴの個体群産卵量は低水準であることが明らかとなった。また,産卵量指数と産卵から約2か月後に解禁されるイカナゴ0歳魚の漁獲量には正の相関が認められ,産卵量指数に基づく漁況予測が可能であると考えられた。
薩南海域におけるカンパチ成魚の遊泳行動を取得し,台湾東部海域の既往知見と比較した。薩南海域の個体は台湾東部の個体よりも移動範囲が狭く,放流した海域の近傍に留まり続けていた。海域間で滞在深度は異なっていたが経験水温は同程度であった。核DNAのITS領域とmtDNAのcytochrome b領域の塩基配列情報を用いて標識個体の種判別を試みたところ,形態的にはカンパチであるにも関わらず,ヒレナガカンパチと同様のcytochrome b領域のPCR-RFLPパターンを示す個体が見られた。
ノリ・アオノリ養殖場に出現する食害種とその出現頻度を明らかにするため,3種類のカメラを用いて観測を行った。魚類の出現および行動の記録にはタイムラプスカメラ(TLC200Pro)および間欠ビデオカメラ(Raspberry pi)を用い,カモ類の出現モニタリングには画像送信可能なカメラ(TREL3G)を用いた。ノリ養殖場では主にカモ類およびクロダイの,アオノリ養殖場ではボラの出現と摂餌様行動が記録された。カモ類の出現頻度には強い自己相関が見られ,一度出現すると翌日も続けて出現する傾向が見られた。
種苗放流されるヤマメ養殖魚との交雑が野生サクラマスの生活史形質に及ぼす影響を評価するため,米代川産サクラマスの雌と関東地方由来のヤマメ養殖魚の雄を交雑させた。作出した交雑魚のスモルト化の盛期は3月であり,養殖ヤマメ(12月)と米代川産サクラマス(4月)の中間であった。1歳における交雑魚の雌の成熟率は43.1%であり,ヤマメ養殖魚(75.7%)と米代川産サクラマス(6.8%)の中間であった。得られた結果から,ヤマメ養殖魚との交雑によってサクラマス地域個体群の生活史特性が変化する可能性が示唆された。
内水面では漁場も採捕の対象となる魚種も多様であり,漁業協同組合(漁協)の経営もそれに対応して多様である。本研究では2017事業年度の全国の571の内水面漁協の業務報告書を用いて内水面漁協を7類型に類型化し,経営の安全性と支出の構造の違いを分析した。その結果,全ての類型の漁協で安全性は高いが,安全性の高さは人件費の額が小さいことによって維持されており,経営改善のためには収支の規模を拡大する必要があること,またアユおよび渓流魚の利益率を改善する必要があると考えられた。
観賞魚飼育における最大許容密度を検討するため,ワキン型のキンギョを用いて10 L水槽で飼育実験を行った。その結果,健全な飼育には飼育開始7日目のアンモニア態窒素濃度が4.0 mg/L以下であることが重要で,その条件における積算代謝体重の上限は6.0 gであることが明らかになった。さらに,体重から標準体長を推定し,水槽毎に飼育可能な魚の標準体長の合計を算出したところ,71 mm(1尾飼育の場合)から172 mm(5尾)となった。したがって,複数の魚を飼育する場合,「水容量1 Lに対して魚の標準体長1 cm」が大まかな目安になると言える。
本研究は青森県小型いか釣り漁業のスルメイカ不漁期における経営実態を明らかにすることを目的とした。2020年11月から2021年2月に青森県内の主要2漁協の小型いか釣り漁業者12名から2019年の経営データを収集した。うち1漁協から29隻分の2011–2019年の水揚金額等のデータを収集した。12隻のうち11隻の経営でいか釣り漁業の収支が赤字であった。1経営の総漁業利益の平均値は漁業共済がなければ100万円にも満たなかった。水揚金額の減少状況から,不漁が不採算状態の原因であることが示唆された。
日本水産学会誌第88巻6号(November 2022)冊子の目次において著者名に誤りがありましたので,訂正いたします。
シンポジウム記録
水産学若手の会主催シンポジウム
次世代へつなぐ水産研究の道程~企業・公設研究所・大学の最先端研究~
誤: 古川壮太
正: 吉川壮太
https://doi.org/10.2331/suisan.WA2980-4
日本水産学会誌第88巻6号(November 2022)515-522頁「イムノクロマトキットを用いたフグ毒スクリーニング法の検討」に誤りがありましたので,訂正いたします。
誤:521頁右「謝辞」1行目 株式会社小川
正:521頁右「謝辞」1行目 株式会社小川水産
なお,J-STAGE公開版(https://doi.org/10.2331/suisan.22-00031)においては,上記の修正を加えた状態の版を公開しています。