屋内大型水槽で自由遊泳するマアジ(尾叉長L=12.5-27.5 cm)のターゲットストレングス(TS)と遊泳角・遊泳速度を,38 kHzと120 kHzのスプリットビーム式計量魚群探知機により推定した。遊泳角は−35から30°で,0°付近にピークがあった。遊泳速度は1.2 L/s以下がほとんどであった。Lの2乗で規準化した平均TSは38 kHzで−67.7 dB, 120 kHzで−69.5 dBであった。既往の研究との比較から,実測に基づく実用的なマアジのTSを明らかにできたと考える。
違法・無報告(IU)漁業由来の輸入品が国内イカ産業に与えている被害を推定した。1990年8月から2016年12月の月次データを用い,需要・漁獲・価格の3本の推定式と需給関係を表す1本の恒等式から成る連立方程式モデルを構築した。先行研究で推定されているIU漁業由来のイカ類の輸入量をもとに,これらの輸入がなかった場合の輸入量について3つのシナリオを設定し,シミュレーションを行なった。その結果,IU輸入品により,イカ産業の収益金額の15-29%にあたる243-469億円が失われていると推定された。
連続熱供給式自記湧出量計およびLee-typeシーページメーターを用いて海底地下水湧出(SGD)量を測定した。山形県釜磯海岸では最大約200 cm/dayのSGDが確認され,陸域由来地下水の寄与率は最大で20%に上った。SGDの多い地点では他地点に比べて海水の栄養塩濃度が5-6 高く,SGDは釜磯海岸における硝酸および海藻の窒素安定同位体比にも強く影響していた。本研究ではSGDによる海域の栄養塩環境への影響が定量的に示され,また海底湧水に含まれる栄養塩が海藻に利用されていることを示す結果が得られた。
マグロのヤケ肉は,致死後の魚肉の酸性化と高体温によるミオシンやミオグロビンタンパク質の変性促進が発生原因であり,同時に,ATPは急速に消失することも報告されている。本研究では酸性pH下でのミオシンの熱変性に及ぼすATPの作用について,マグロミオシンS-1の濁度とCa-ATPase活性を指標にして測定した。酸性pH下のミオシンS-1の熱変性は,生理的な濃度のATPで強く抑制された。ATPはミオシンS-1の強力な変性抑制作用を示し,致死後の急速なATPの消失はヤケ肉発生の引き金となると推察する。
アオリイカ外套筋とマアジ背部普通筋の凍結解凍後における肉質と細胞外マトリックスの違いについて検討した。アオリイカでは圧出水分と破断応力は,凍結解凍前後で顕著な違いは認められなかった。しかし,マアジでは圧出水分の増加と破断応力の低下が認められた。一方,アオリイカでは凍結により筋肉内に微小の氷結晶が形成され,海綿状の細胞外マトリックスには目立った変化は認められなかった。マアジでは凍結により比較的大きな氷結晶が形成され,ハニカム状の細胞外マトリックス構造の崩壊が認められた。
本研究の目的は,加熱調理を目的とした消費者による宮城県産生食用むき身カキに対する評価を明らかにすることである。2017年10月に,宮城県産カキの主要消費地に住む消費者を対象にWebアンケートを実施し,収集したデータを仮想市場評価法により分析した。分析結果から,生食用を有意に高く評価する消費者の特徴として,貝類の購入頻度が高い,生鮮カキの購入時に新鮮さや生食用であることを重視する等が明らかとなった。消費者は生食用カキに対して,加熱調理用カキを基準として平均で11.6%の追加的な支払意志額を示した。
アカアマダイに寄生するPhilometroides branchiostegi様線虫の寄生部位を明らかにし,遺伝子解析を試みた。大阪市中央卸売市場およびスーパーマーケットで扱われた山口,福井,石川県産のアカアマダイ7尾の鰓蓋,胸鰭基部,口唇の皮膚から赤色または赤褐色の8虫体が検出され,形態学的にP. branchiostegiと推測された。18S rDNAの部分塩基配列(1700 bp)は全虫体で一致し,地域差を認めなかった。糸線虫科線虫との間に97%以上(97.7-98.5)の相同性を認めた。
超音波発信機を用いた超音波バイオテレメトリーは長期間連続的に対象生物の位置を計測する手法である。この手法を用いてイセエビを追跡する場合,脱皮に耐えうる発信機の装着方法が不可欠である。本研究では脱皮に耐え得る標識であるスパゲティタグに発信機のダミーを固定した標識を作成してイセエビに装着し,その保持率を調べた。55日間の飼育実験の結果,大型個体では8個体のうち0個体が,小型個体では10個体のうち5個体が実験終了までタグを保持していた。
真珠核を2個(直径4.27-4.51 mm)あるいは4個(直径2.50-2.67 mm)挿入した貝(2個挿核貝,4個挿核貝)を低塩分海水養生と海上養生させ,低塩分海水養生による無キズ珠率向上効果を評価した。その結果,2個挿核貝では低塩分海水区の無キズ珠率が海上区よりも顕著に高く,試験区間に有意差が認められた。一方,4個挿核貝では試験区間に有意差は認められなかった。以上の結果から,直径4.27 mm以上の真珠核を1個あるいは2個挿入した貝では,低塩分海水養生効果を得られることが明らかになった。
新鮮なカミクラゲSpirocodon saltatrixは,独特な強い匂いを有することを見出した。その匂いはキュウリ様臭であった。そこで,このカミクラゲの有する特徴的なキュウリ様匂い物質について同定を試みた。GC/MS, GCを用いた官能試験,標品を用いた試験結果から,カミクラゲの有するキュウリ様臭物質は(E)-2-nonenalならびに(E,Z)-2,6-nonadienalと同定した。