2017年6月~2019年6月に瀬戸内海で流れ藻の構成種とそれに随伴する魚類を毎月調べた。15種の海藻・海草類から成る計206塊の流れ藻を採集し,その平均重量は0.05-5.97 kg/塊であった。優占種は冬と春はアカモク,タマハハキモク,ホンダワラ,夏と秋はアマモであった。魚類は24種,計6,053個体を採集した。その密度は0.1-209.0個体/kgであった。優占種はアミメハギ,シロメバル,クロメバル,ニジギンポ,クロソイであった。アミメハギは夏と秋に,シロメバルとクロメバルは春に優占した。
近年の東京湾では,外来性二枚貝のホンビノスガイが増えているが,生態系への影響はわかっていない。本研究では,エンクロージャーを使った野外操作実験を行い,ホンビノスガイが,砂質干潟で,底質環境,底生微細藻類およびベントス群集に与える影響を測定した。春のホンビノスガイは在来種アサリと比較して,その生物攪拌により底質の粒度と酸化還元電位を大きくし,さらに底生珪藻の現存量を増加させる生態系機能を有することがわかった。しかし,メイオベントスやマクロベントスの現存量や種組成への影響は見られなかった。
近年,瀬戸内海では栄養塩濃度低下による藻類養殖被害が発生し,環境負荷の少ない施肥技術の開発が求められている。本研究では静穏域で海面を囲い込み(香川方式ノリスカート),その内側で施肥を行うことで栄養塩を効率的に供給する技術を開発した。試験区では対照区と比較して十分に高い栄養塩濃度を維持し,ノリの色調,乾海苔の価格ともに試験区で高かった。一方,降雨時には,香川方式ノリスカート内側の極表層の塩分が顕著に低くなり,雨水保持による栄養塩供給効果も期待できることが判明した。
高知県全域の複数河川において,2007-2019年に,アユ死亡魚と発症魚から冷水病菌をそれぞれ28株および10株分離した。分離した冷水病菌の遺伝子型をPCR-RFLP,MLST解析等を用いて,10遺伝子によって判別した。その結果,分離された冷水病菌の遺伝子型はG-C/A/S/52型が多かった。また,県内河川の冷水病発生数は2015年以降に増加し,2018年に最も多かった。2015年以降の死亡魚由来の菌は殆どがG-C/A/S/52型であり,近年の冷水病発生はこの型が主因と考えられた。
夏眠期のイカナゴ0歳魚について,生体時とホルマリン固定1か月後および固定1,2年後の肥満度を比較した。ホルマリン固定によってイカナゴの体長は収縮し,体重が増大した結果,ホルマリン固定1か月後の肥満度(YCF)は,生体時(XCF)に比べて有意に大きくなり,両者の関係はYCF=1.03XCF+0.20で表せた。また,ホルマリン固定後1か月と固定1,2年後の値には有意な差はなく,ホルマリン固定後1か月から2年後までの間は,生体時に対して同一の変化率にある値として扱えると考えられた。
石垣島名蔵湾北部および西表島船浦の潮間帯砂泥域において,コアマモおよび他の海草類の被度を調べるとともに,平均潮位からの水深を測定した。干潮時に,ドローンによる空撮も実施した。両海域ともに,ラグーン状の窪地もしくはその周辺にコアマモ群落が広く認められ,コアマモの被度は水深50 cm前後で最も高かった。コアマモの分布面積はいずれも10 ha以上に及び,琉球列島で最大規模の群落とみられた。沖縄ではコアマモ群落の多くが著しく衰退しているが,船浦では,比較的長期間大規模群落が維持されていると考えられた。
2019年の日本のさんま棒受網漁場は出漁当初の8月から公海で形成され,その後も例年より沖合で継続した。漁場に来遊するサンマの耳石年輪径(ROA)は,6-7月の分布経度の違いを反映し,漁期の進行とともに減少する。2019年8-11月に採集したサンマのROAでは,その変化が認められなかった。これは,日本漁船に漁獲されたサンマは,来遊経路の限られた海域からしか来遊しなかったためと考えられた。6-7月の調査船調査結果から,来遊した魚群は分布量が多かった東経171度付近の魚群が主体であった可能性が高い。
本州,四国,九州,琉球諸島の12地域から採集したアコヤガイの貝殻真珠層の黄色度を比較し,地理的変異を調査した。黄色度の中央値は,琉球諸島に属する沖縄県の座間味島・石垣島・西表島の3地域と鹿児島県上甑島のアコヤガイが,他の本州・四国・九州の8地域に比べて高かった。各地の水温と黄色度の関係は明確ではなかった。黄色度が量的な遺伝形質であることをふまえると,本研究でみられた黄色度の地理的変異には,アコヤガイの黄色色素代謝や色素分泌に関する遺伝的特性の違いが,環境要因より大きく影響していると考えられた。
2017年11月から2020年3月に大阪府内で販売されたマイワシからアニサキス属幼線虫を検出し,その種と寄生率を調べた。その結果,マイワシ872尾中6尾(0.7%)の内臓からAnisakis simplex sensu strictoが,1尾(0.1%)の内臓からA. pegreffiiがそれぞれ1虫体,2尾(0.2%)の筋肉からA. simplex s.s.が3虫体検出された。本報は,マイワシ筋肉から検出したアニサキス属幼線虫の種と寄生率を初めて明らかにした。