日本水産学会誌
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89 巻, 5 号
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巻頭言
令和4年度水産学技術賞
報文
シンポジウム記録
水産における昆虫の飼料利用の現在と未来
Ⅰ. 昆虫飼料の社会実装に向けた基礎
Ⅱ. 昆虫の飼料利用の現在地~水産と畜産の現場から~
水産学若手の会主催シンポジウム 次世代へつなぐ水産研究の道程~企業・公設研究所・大学の研究~
ミニシンポジウム記録
知床周辺海域のホットスポット形成:海洋環境から高次捕食者まで
懇話会ニュース
水産研究のフロントから
話題
  • 北川 貴士
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 485-488
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー
  • 大澤 勝紀
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 489
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「荒川水系黒目川におけるヌマチチブから発見されたHenneguya属粘液胞子虫の観察と寄生状況」

    発表者:塚越遥人,水口勇人,安原颯大,後田 櫂(東京都立多摩科学技術高等学校)

    1. 研究の素地

     東京都立多摩科学技術高等学校は2010年に開校した新しい学校である。将来の科学技術者などの理科系人材を育成することを掲げており,2年次からはBT(バイオテクノロジー),ET(エコテクノロジー),NT(ナノテクノロジー),IT(インフォメーションテクノロジー)の各領域に分かれ,研究を進めていく。3年次には卒業研究が始まり,各領域で数多くの生徒が発表会や学会に参加し,多くの実績を残している。また,進学指導推進校や英語教育推進校として理数教育,科学技術教育,英語教育,進学指導の取り組みに力を入れており,2022年度国公立大学合格者は現役生で56名を達成するまでとなっている。

     科学研究部生物班は創立当初より設置された部であり,現在では,数学班,生活科学班,化学物理班とともに科学研究部として活動している。生物に興味がある生徒が多く入部しており,2023年度の部員数は83名とここ数年で最大の人数となった。生物部というと少人数のイメージだが,強豪校の運動部にも負けない部員数を誇っている。それぞれが興味の対象や研究対象としている生物の類似性をもとに,グループに分かれており,〇〇屋と呼んでいる。魚屋,虫屋,両生類・は虫類屋など王道の生物を扱う生徒もいれば,藻屋,ゴキブリ屋などマニアックな屋を開拓しているものも多くいる。活動場所は生物室だけにとどまらず,近隣の野川をはじめ,三鷹市の丸池,高尾山,江ノ島,松輪と様々なフィールドで月1回以上の調査を行っている。こういった活動の中で各々が課題を発見し,研究を行っている。卒業生には,新種の生物を発見するなど活躍しているものもいる。採集や研究だけでなく,生き物の展示も行っている。文化祭では採集した生物や各自飼育している貴重な生物を展示し,尽きることない解説やめったにない体験ができるためか,非常に人気のコンテンツとなっている。

     生物班では自由な発想で研究することを推進しており,顧問はフィールドワークの機会を与え,テーマを設定することはしないようにしている。また,上下関係を大事にしており,卒業生や先輩がアドバイスをしてくれて,研究が進んでいく光景をよく目にする。卒業していく生徒は地方の大学へ進学する生徒が多く,それぞれが強い意志をもって研究に臨んでいく。好きなことを追い続けるその姿勢には,驚きを隠せない。このような土壌の中で育まれて本研究が出てきた。

  • 金澤 桜子, 山中 源太
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 490
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「大阪湾におけるシラス漁に含まれる海洋稚仔魚の季節性変化を利用した海洋魚類の生態調査の可能性の検討」

    発表者:金澤桜子(西大和学園高等学校)

    1. 研究発表に至る経緯

     西大和学園中学校・高等学校は,次代を担う高い理想と豊かな人間性をもった生徒の育成を目標として,1986年に開校した男女共学の私立中高一貫校である。開校以来,科学的洞察力,国際性,利他の精神といった,リーダーとして不可欠な資質を育む教育を目指し,ユニークな教育を実践してきた。平成14年度には,文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け,中高一貫校であることを活かして中学段階から科学技術への興味関心・科学的思考力・問題発見解決能力・プレゼンテーション能力等を育てるプログラムを展開している。

     今回受賞した生徒も,本校中学3年生で全員が課題研究を行なう「卒業研究」において,シラス干しやチリメンジャコの加工物に他の海洋稚仔魚が混入しているのを見て,漁獲時に含まれている他の稚仔魚について研究し,季節によってどんな種類や数が見られるのか分別・観察・分析をした。その内容は素晴らしく,学年の代表にも選ばれ,中学生全員の前で発表を行った。高校生となった今も,自分自身で海洋稚仔魚についての独自の研究を続け,その成果が今回の受賞につながることとなった。

  • 藤野 崇允, 松田 煌生
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 491
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「ゼブラフィッシュの学習における嫌悪刺激と報酬の効果の差」

    発表者:藤野崇允,松田煌生,城根誠心,西川真捺希(高槻高等学校)

    1. 研究発表に至る経緯

     私たち高校生は学校で日々学問に励み,その学習成果をテストというもので評価されている。同じ時間,内容の授業を受けているにもかかわらず,クラスによって平均点が大きく変わることがある。そこで私たちは教師の教育方法が異なるため,この学習効果の差が生じたのではないかと考えた。

     高槻高校学校には,大きく分けて,「褒めて生徒を伸ばす教師」と「叱って生徒を指導する教師」の2種類の教員がいる。私たちの学習をより成功させるためには,どちらの教育方法による学習効果が高いのか,つまり「アメ」の教育法と「ムチ」の教育方法のどちらによる教育がより学習に適しているか興味をもち研究を始めた。私たちは昨年の私たちの研究で用いたゼブラフィッシュをモデル生物として使い研究を行った。

  • 倉澤 聡
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 492
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「サメ類のロレンチーニ器官の数量と分布」

    発表者:石田 大(東京都立大島海洋国際高等学校)

    1. 研究発表に至る経緯

     本校は東京都内で唯一海洋について学ぶことのできる高校である。この点に魅かれて,船舶,海洋環境,海洋産業,海洋生物に興味のある生徒が毎年入学する。発表者である生徒もそのうちの1名である。当生徒は入学前からサメ類に強い関心を持ち,幼いころより水族館で生きた姿を観察し,専門家が主催するイベント等に参加していた。また,図鑑等の関連書籍や,時には専門書を読むほど貪欲に知識を収集していた。本校入学後は,魚類全般について精通している1学年上の先輩の力を借りながら全国の漁師と交渉してサメ類を入手し,その観察,解剖,写真撮影技術,骨格標本作成を通して,サメ類に関する知識を積み重ねた。

     本校では,3学年次に「課題研究」という実習科目が設定されており,生徒は本実習のテーマはサメ類に関する研究にすることを既に決めていたが,より具体的な内容設定に苦労していた。そこで,私が相談を持ち掛けられた際に,サメ類の持つ特殊な能力や器官について,在校中に開拓したサンプル入手経路を大いに利用できるテーマで考えてみてはどうかと生徒に助言した。それがきっかけとなり,生徒はサメ類独特の器官であるロレンチーニ器官に着目し,本器官の頭部における分布やその数に種類ごとに違いがあるかもしれないという疑問に至った。そこで,出来る限り多くの種のサンプルを集めてその疑問点を解決することを目的とし,更にサメ類の進化という新たな興味を持って,本研究に取り組むこととなった。

  • 浅倉 努
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 493
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「赤潮珪藻とおからの養殖飼料としての有効性の検証~オニテナガエビの飼育を通じた成長と官能評価~」

    発表者:鶴岡知海(世田谷学園中学校高等学校 生物部)

    1. 研究発表に至る経緯

     本学園の生徒は,養殖用飼料原料として既に使用されているSkeletonema属やChaetoceros属の珪藻が毎年夏に発生する赤潮に含まれていることに気が付き,環境問題とされる赤潮自体から直接赤潮珪藻を取り出して飼料として活用できないだろうかと考え,低コストかつ持続可能な水産養殖用飼料の開発に取り組んできた。

     これまでの研究では,東京湾のお台場海浜公園前の汽水域から採集した赤潮を培養,濾過,乾燥させることで粉末化したものを餌として使用していた。しかし,赤潮珪藻単体で餌として使用した場合,タンパク質の不足を示唆する実験結果も得られ,今回,それを補強するため,産業廃棄物の一つである“おから”を取り入れた。なお,“おから”の主成分は食物繊維であるため,飼育対象生物が食物繊維消化酵素であるセルラーゼを有している必要がある。

     オニテナガエビMacrobrachium rosenbergiiは一昨年度より飼育対象動物として利用しており,今回の海外文献調査の結果,成体がセルラーゼを有していることが確認できた。さらに,本研究では新たな知見として,稚エビ段階でもセルラーゼ活性を有していることを確認でき,稚エビが“おから”を消化できる可能性が得られた。

     以上の経緯から,新たに“おから”を赤潮珪藻に混合させた飼料をオニテナガエビに対して与え,その有効性を検証することにした。

  • 谷脇 鉄平
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 494
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
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    受賞発表題目:「サンショウウオ類(クロサンショウウオ及びヒダサンショウウオ)識別プライマーの有効性の検証」

    発表者:野田拓夢,和田直季(大阪高等学校 科学探究部),谷脇鉄平(大阪高等学校),山崎裕治(富山大学),中薮俊二(高岡龍谷高等学校)

    1. 研究発表に至る経緯

     本校科学探究部は,2020年3月から富山大学学術研究部理学系の山崎裕治准教授との共同研究(高大接続活動)を通じて,富山県氷見市の富山大学理学部・氷見市連携研究室(ひみラボ)を拠点に,仏生寺川及び万尾川水系で環境DNA分析を利用した魚類の網羅的調査1,2)を行ってきた。これまでの調査では,両河川から多様な希少種や外来種のDNAを検出し,仏生寺川及び万尾川水系における魚種の豊富さや多様さに驚かされる結果が得られている。

     この研究を通じて,科学探究部では氷見市における魚類以外の希少種の生息状況も調べたところ,氷見市をはじめ富山県内には数種のサンショウウオ類が生息していることが確認できた。特に,氷見市ではクロサンショウウオ(環境省:準絶滅危惧)及びヒダサンショウウオ(環境省:準絶滅危惧,富山県:準絶滅危惧)の生息確認ができたが,詳細な情報は無く,また,これまで富山県氷見市では環境DNA分析を利用したサンショウウオ類の生態調査は行われていなかった。

     サンショウウオ類は,宅地開発や外来種等の影響により生息環境の分断や劣化が起きているため,絶滅が危惧されている。そのため,個体群を保護するには,繁殖場所や幼生・幼体の生息環境の保全が極めて重要となる。しかし,幼生・幼体は隠遁性が強く,種類によっては夜行性であるため,生息している野生個体を実際に観察して研究することは非常に困難である。その点,環境DNA分析は,直接生物種を確認する従来の方法に比べ調査域の水を汲むだけであるため,簡易かつ生物種を傷つけず,労力も削減でき,さらにはこれまでの共同研究と同様に直接現地に出向かずに遠隔でも研究が可能であるという利点がある。その後,2021年12月に富山大学山崎准教授から長年に渡り富山県内のサンショウウオ類の生態調査をされている高岡龍谷高等学校の中薮俊二先生をご紹介いただいたことをきっかけとし,両生類を対象とする環境DNA研究に挑戦することになった。

     本研究では,2022年4月から環境DNA分析を利用したクロサンショウウオ及びヒダサンショウウオの生態調査を行いながら,将来的には希少種の保全を目的とした生息マップの作成を試みることも併せて目的とした。

  • 長田 牧, 窪田 悠喜
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 495
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「メダカの流れ走性と色別」

    発表者:窪田悠喜,鈴木達也,西川和摩(山梨県立日川高等学校)

    1. 研究発表に至るまでの経緯

     本校は平成24年にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け,3期目を迎える。現在は全校生徒が課題研究に取り組むことで,主体的に課題を発見し,科学的に探究する力を育んでいる。課題研究をSSH事業の中心に据えることで,生徒の論理的思考力や判断力を向上させることを目指している。また,課題研究に必要な技能の習得のため,研究の進め方やプレゼンテーションを学ぶための講演会なども行っている。SSH活動に特化したSSHクラスも設置しており,今回発表した生徒たちはSSHクラスに在籍している。このSSHクラスでは先に述べた講演会以外にフェロー講演会やイギリスの高校との交流発表会を実施し,科学的リテラシーならびに国際性の向上も図っている。本研究はメダカの流れ走性を利用して,メダカの色を見分ける能力を調べた研究である。メダカの色別能力は色の組み合わせや色の濃淡によって異なるという先輩たちの研究に興味を持ち,メダカの色別能力をより具体的に示そうとした。本校の課題研究では生徒の主体性を重視しているため,教員が指導する際は検討相手としての立場を心掛け,生徒が試行錯誤しながら研究に取り組めるよう促している。今回の研究は,生物の資料集にもよく掲載されているメダカの流れ走性に関する実験に生徒らしい発想力が加わったことで,色別能力を図るという興味深い研究につながった。

  • 五十嵐 康二
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 496
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「軽石・生成ペレット入り人工ライブロックの製作に関する研究」

    発表者:坂本悠輔,岸本侑之介,國吉海里,山川 裕,崎枝留希(沖縄水産高等学校生物部)

    1. 研究発表に至る経緯

     本校は1904年創立で,県内でも歴史ある高校の1つである。当初の設置学科は水産系学科のみであったが,現在は海洋サイエンス科(海洋生物・マリンスポーツ)と海洋技術科(航海・機関),総合学科(水産食品,工業,商業,福祉,家庭,スポーツ)の3科で編成されており,様々な専門分野を学ぶことができる。

     生物部でも,そんな本校ならではの視点で専門的な研究を行っており,野外で採取するなどした様々な生物の飼育・観察を行っている。休日や長期休暇にはフィールドワーク合宿で,ヤンバルクイナ,イシカワガエルなどの天然記念物の調査・観察を行っている。そして,経験豊かな正顧問のお陰で,野生のヤンバルクイナの近接目視にもほぼ毎年成功している。昨年は,研究活動の一環として,海水魚の水槽飼育時に重要な役割を果たすライブロック(LiveRock以下LR)に着目した。LRとは,死サンゴの骨格表面が海水中で藻類に覆われ,内部に微生物や小型の生物が住み始めたものをいう。生きている石,LiveRockといわれる所以である。海水魚水槽内で,LRは生体の住処のみならず水質浄化の役割も果たしている。十数年前までは,沖縄や東南アジアの熱帯・亜熱帯域で採取された天然LRが,世界中のアクアリストに高値で取引されていた。しかし近年,サンゴ礁保全のため天然LRの採取が世界規模で規制され,沖縄県では完全に禁止されている。そのため,世界中で人工LRの需要が急速に高まっている。生物部では当初,LRとほぼ同じ成分である生成ペレット(浄水の過程で地下水から除去された硬度成分)を使用して人工LRを製作していたが,「軽石を入れてみてはどうか」,という生徒の発案から,軽石・生成ペレット入りLRを製作し,海水魚飼育者の視点に立った評価基準を作成して人工LRと天然LRの差異について研究を行うことになった。

  • 辻本 新
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 497
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「東京湾西岸におけるマルスズキ(Lateo Labrax Japonicus)の個体による耳石形状パターンの相違をもたらす原因の考察」

    発表者:辻本 新(栄東高等学校)

    ご挨拶

     まずこの度は大変ありがたい賞を頂き光栄に思う。本研究を行うにあたり様々な方にご助言を頂いた。この場をお借りして御礼申し上げる。

     私自身今回が二度目の学会参加となり,学会とは何より学びの場であると考え,それを第一目標として臨んだ。今回はオンラインであったこともあり,他の参加者との交流は前回ほど密であったとはいえないが,それでも前回に勝るとも劣らない,素晴らしい学びを得ることができた。今後も機会があれば参加し,成長の糧としたいと考えている。

    研究概要

     本研究は2019年に開始し現在も続けているマルスズキのサンプリング調査に端を発する。同調査の過程で当初年齢査定法として使用していた耳石の形状に二極化した変異(図1, 2)を確認し,他魚種においても同様の変異に関して論じた論文は確認できなかったため新規の知見を得られる可能性が非常に高いように考え,また耳石のその個体の過去の生態を反映する,natural tagとしての役割を考えると,マルスズキという種の,ひいては魚類の根本的な生態に結び付く可能性を期待し研究を開始した。

     本研究で使用するデータセットは先述した調査により個人で収集したものである。採取法は釣獲とし,そこから耳石形状を始め,サイズや重量等全24項目のデータを採取している。採取地点は主に東京湾西岸に限定しており,サンプル数は現在83個体に上る。

     仮説検証では演繹的分析と帰納的分析を行った。

     演繹的分析では大きく性別相違,性転換説,種の相違,交雑種,隠蔽種説,塩分濃度変化説の5つの仮説を建て,それぞれを検証した。

     性別相違は二極化した相違では定番だが有意な差はみられず,性転換説もマルスズキの性転換説は消極的であり学術的根拠が無い上に,耳石に性別が影響するという事実も確認されていないことから考えにくい。

     交雑種・隠蔽種に関しては,写真の検査で有意な差が見られた個体はいなかった為一時は棄却したが,同類のタイリクスズキとの交雑個体や隠蔽種であった場合,外見で見分けるのが非常に困難であることが指摘されているためDNA分析を中心に検証を進めていく。

     塩分濃度変化説は,マルスズキの摂餌のための長期遡上性を踏まえ,塩分濃度の異なる地点で生活をする同種の個体の耳石内Ca:Sr比が異なることが報告されている1)ことから考察したがt検定では有意な差は見受けられなかった。

     帰納的分析では図1の個体を切れ込みなし,個体群Aとし図2の個体を切れ込みあり,個体群Bとして採取データ23項目内で両個体群間に有意な差が見られないか検証した。

     その中で,緯度経度を用いて数値的に各採取地点を表した分析で,一定の地点に個体群Aの個体が集中しているように思われた。そこで,地理情報分析支援システムMANDARAを使用して地図を生成した(図2)。これより図に示した通りの偏りを見てとれ,半径5 km以内に陸地がない海域を外洋と規定し,新分析項目「外洋に面しているか否か」を定めた。これをカイ二乗検定で検証すると,0.0008389という非常に高い有意差を検出した。

     これにより採取地点が耳石形状変異に大きな影響を与えていることがわかったが,これはあくまで統計分析の結果にすぎず,間接要因であると考えられる。さらなる仮説検証が求められる。

  • 小泉 智弘
    原稿種別: 話題
    2023 年 89 巻 5 号 p. 498
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/23
    ジャーナル フリー

    受賞発表題目:「よみがえったタンパン川~日立市宮田川の昭和・平成・令和における生物相の変遷から河川生物の保全について考察する~」

    発表者:柴田 司,茅野うらら,長山颯汰,杉山 稜,鈴木 湧(明秀学園日立高等学校)

    1. 研究発表に至る経緯

     本校は1925年9月5日に設立された長い歴史を誇る高校であり,令和5年現在においてはST・GS・S・Aの4コース制によって,それぞれが若者たちを育む取り組みを行なっている。こうした本校の教育活動の中には,生徒による自主的な探究活動があり,その一環として「宮田川研究会」が令和元年より設立された。

     宮田川は銅山からの排水による影響で,長らく青みがかった灰色をしていた時期があり,一時期は「タンパン川」と呼ばれたほど汚染の激しい川である(※タンパン:硫酸銅の別名)。今でこそ水は透明であるが,ほとんど生物はいないだろうと調査前は予想していた。しかし,我々の思っている以上に生物はたくましい存在であった。生徒に促されて現地調査を進めると,想定を遥かに超えた多様な生物の生息が明らかとなったのだ。また,生物相の調査と並行して歴史探究にも取り組み,生徒達とともに様々な側面から河川の研究へ勤しんだ。その過程で,本校に長らく勤められている教員から,平成8年に明秀学園で実施された宮田川の生物調査の記録の存在について知らされた。この記録と現在の調査データを照合した結果,現在の宮田川の生態系は回復傾向にあることを確信したのであった。

     以上の研究結果を総括し,河川生態系回復のモデルケースを示したいと考え,生徒と共に本学会での発表に臨む運びとなった。また,当時の研究会メンバーには水産学系の大学への進学を希望する生徒も在籍していた。彼らに学会発表の経験を積ませ,生物研究の厳しさと難しさ,そしておもしろさを共に分かち合うべく,本学会にて研究発表を実施した。

水産科学の未来を拓く 若き出世魚たち
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