近年,統計ソフトRを用いて時空間統計モデルの解析を可能にするVector Autoregressive Spatio-Temporal model(VAST)が注目されている。しかし,VASTの詳細を日本語で記述した文書はこれまで発表されていない。本稿の目的は,VASTの概要(モデル構造,推定方法の理論,専門用語等)および実際の国際水産資源(クロマグロ,サンマ,アオザメ)への適用例を示すことである。これにより,我が国でVASTが普及し,実際の水産資源への適用が促進されることが期待される。
島根県沖合底びき網漁業を対象として,現用網の袖網および身網の一部に超高分子量ポリエチレン繊維製網地を導入して網糸直径を細くした改良網1,さらに天井部の目合を拡大した改良網2について,模型実験と数値解析によって抵抗削減効果を推定した。現用網から改良網2に変更することで網抵抗は29.6%,網抵抗と海底との摩擦抵抗の合計は9.9%減少し,網形状はほとんど変化しないと考えられた。実物網を用いた海上実験では,通常の曳網速力3ノットで改良網2では現用網と比べてハンドロープ張力が19.3%減少した。
日本海西部の重要な漁獲資源である雄ズワイガニは,甲殻の硬度によって硬ガニと水ガニに大別され,京都府では硬ガニは最終脱皮を終えているタテガニと終えていないモモガニに区別される。資源量推定において重要なモモガニ出現率および最終脱皮率について,京都府沖での採集個体を用いて調査した。モモガニ出現率は年変動が大きく,また漁期中に低下する傾向が見られた。最終脱皮率は1995年以降有意な上昇傾向が認められた。加入量一定で最終脱皮率を上昇させたシナリオによる計算では,タテガニの齢期群組成が若齢寄りになることおよび資源重量の減少が予測された。
2017年4月に長崎県対馬市浅茅湾で養殖クロマグロの幼魚約2,400尾が斃死した。斃死魚の鰓には住血吸虫卵の蓄積が認められたが,蓄積が軽度の魚も斃死していた。斃死発生前後には有害プランクトンHeterosigma akashiwoが13-90 cells mL−1出現していた。住血吸虫卵密度およびH. akashiwo細胞密度は,それぞれ単独では斃死を引き起こす程度ではなかったが,両者は共に鰓に影響を及ぼすことから,相乗効果により斃死が引き起こされた可能性がある。
瀬戸内海から豊後水道東部(以下,宇和海)の水温環境の異なる6か所において,ヒジキ,ワカメ,トサカノリの養殖を行った。6か所間には2-3月に最大で5℃程度の水温差があった。ヒジキは養殖期間を通じてほぼ15℃以下であった瀬戸内海よりも宇和海で良く成長したが,宇和海最南の実験地では食害が原因と推測される藻体の消失が起こった。ワカメは瀬戸内海から宇和海北部で成長したが,宇和海南部では同様に消失した。トサカノリは水温が高い宇和海南部で良く成長したが,瀬戸内海では春季の1時期を除き成長せず,藻体は枯死した。
三重県早田浦の磯焼け海域で2010年2月から2019年12月にガンガゼ類の除去実験を行った。ガンガゼ類はダイバーおよび船舶からの捕獲により除去した。磯焼け海域に除去区を3区設け,海藻被度とウニ類,サザエ,アワビ類の密度を調査した。継続的な除去でガンガゼ類密度が低く保たれた結果,除去区の海藻被度が増加した。また,除去前と比較してガンガゼ類以外のムラサキウニやナガウニ類等のウニ類密度が増加し,ウニ類の種数増加が認められた。除去前に確認されなかったサザエやアワビ類が,海藻被度が増加した後に確認された。
人工種苗由来の完全養殖ウナギの白焼きについて,官能評価および化学・物性分析を行った。成鰻生産,焼成加工は静岡県内の養魚場,加工場で行った。同所で生産した天然種苗由来の従来型養殖ウナギを比較対照とした。官能評価では,完全養殖の方が脂ののり良く,皮がかたいと評価された。一方,化学分析では,脂質含量に差は無かったものの,粗脂肪中の高度不飽和脂肪酸は完全養殖の方が有意に少なく,官能評価に影響した可能性がある。また,物性分析によれば,身と皮の破断強度は完全養殖の方が有意に高く,官能評価の結果と一致した。
成熟期にあるオイスターバー市場に向けた殻付カキの商品開発を支援することを主目的に,殻付カキの外観品質に関する消費者評価実験を行った。潜在クラスによるコンジョイント分析の結果から3つのクラスに回答者は分けられ,そのうちの1つのクラスでは,一般的にオイスターバーで流通する国産殻付カキに対する支払い意思額が687円/個,身入りはやや小振り,殻サイズは大型貝が好まれ,同時に小型貝でも受け入れることが推定された。殻の形状は殻長:殻高の比率1:1.5が好まれることが推定された。身質は全ての水準で非有意であった。
Shannon指数を用いて47都道府県庁所在市別に主要生鮮魚介類の消費魚種の多様度を数量化し,Global Moran's I統計量とLocal Moran's I統計量を用いてその空間的自己相関を分析した。消費魚種の多様度は2000年から2017年の間に日本全体で減少傾向にあり,多様度の高いまたは低い都市が特定地域に集中する傾向も経年的に弱まっていた。関西・瀬戸内地方の11都市が多様度の高いホットスポット,静岡市,甲府市,前橋市,長野市,青森市,札幌市の6都市は多様度の低いコールドスポットを示した。
イセエビの主な漁法である刺網は受動的な漁法であり,イセエビの移動生態は漁獲量と密接に関係すると考えられる。本研究では,本邦のイセエビ研究では初となる音響テレメトリーを用いた高解像度の移動追跡を行い,イセエビの摂餌活動のピークである高水温期の移動情報を蓄積した。追跡した4個体の内,42日間の調査で最後まで移動を追跡できたのは最大の個体だけであった。また最大の個体と最小の個体では測位点の分布や移動の実態が明らかに異なり,本研究の手法により新しい移動知見を得られる可能性を示した。
伊勢湾および三河湾で採集した二枚貝浮遊幼生の消化管内の珪藻組成を,走査型電子顕微鏡観察に基づいて定量的に解析した。消化管内に認められた11属の珪藻のうち,Pseudo-nitzschia属がすべての調査点で最も優占していた。消化管内において,Chaetoceros属の栄養細胞やPseudo-nitzschia属は細かく断片化していたのに対し,Chaetoceros属の休眠胞子やThalassiosira属などは大きく損傷せずに細胞の原形が保たれており,その大きさは3.0-8.4 µmであった。