日本におけるウナギ放流は年間漁獲量のオーダーに匹敵する規模に達しているが,その効果や影響に関する知見は限定的であり,調査研究が必要とされる。今後のニホンウナギ放流に関する調査研究の発展に貢献することを目的として,世界のウナギ属魚類の放流に関する知見をまとめた。現在のところ,ウナギ放流が再生産を通じて資源回復に貢献しているのか判断することはできない。一時的な漁業資源の維持・増大,生物多様性の維持・回復といった効果が想定できる一方で,種内競争の激化,病原体の拡散といった負の影響も想定されている。
瀬戸内海全域のメイオベントス生息密度は,季節的には春季から夏季に高く,年平均ではおよそ400–1,000個体/10 cm2で分布すると考えられた。ほとんどの定点で線虫類の生息密度が最も高いが,現存量ではカイアシ類が線虫類を上回る定点が多く見られた。底泥の有機物量が多い浅海域で底生性カイアシ類の生息密度が高い傾向にあり,生産量では線虫類を上回ることが明らかとなった。水深が深く泥分率が低い有機物量の少ない海域では,メイオベントスの生産量は低いが多毛類の生産量が多かった。
2016年以降,日本人にとって馴染みの深いスルメイカの不漁が続いているが,この不漁に対するイカ加工業者の実態は詳細に把握されていない。本研究では,イカ加工業者の実態把握と今後の対応策を,統計資料整理とインタビュー調査を通して検討した。調査の結果,イカ加工業者が製造している製品タイプや加工度といった,各業者が有している特性ごとに,様々な不漁への対応がなされている実態が明らかとなった。これらの実態に基づき,各業者の特性にあわせたイカ類の安定的確保に資する対応策の重要性や,スルメイカ以外の国産イカ類の開発・活用の必要性を論考した。
CO(一酸化炭素)濃度の規制値を超える可能性がある輸入マグロの普通肉以外の8部位についてヘム鉄含量とCO濃度を明らかにした。ヘム鉄含量は吸光度法により,CO濃度はガスクロマトグラフィーにより分析した。各部位の魚肉中のヘム鉄含量を調べた結果,普通肉と比較して血合肉,喉肉,胸鰭基部,鎌肉,頬肉,顎肉のヘム鉄含量が著しく多いことがわかった。魚肉中のCO濃度は血合肉が最も高く,平均値が規制値を超えており普通肉以外の部位の中には現行の規制値を超えてしまう個体が存在することが明らかになった。
マイワシ魚醤(10,20,30%食塩)の熟成初期における魚類主要アレルゲンであるパルブアルブミン(PA)の減少について経時的に調べた。20または30%食塩区は10%食塩区より長期間PAが検出され,塩分濃度で分解に差があった。抗生物質とトリプシンインヒビターを添加したマイワシ魚醤(20%食塩)では,抗生物質の有無によるPAの分解挙動の差は確認できなかった。またペプスタチンA添加区のみ熟成21日目までPAが確認でき,熟成初期のPA分解には自己消化酵素のアスパラギン酸プロテアーゼの関与が示唆された。