ヒラメ漁獲量の地域的変動特性を明らかにするため1978-2017年の道府県別漁獲量を主成分分析によって解析した。第1主成分は本州北部太平洋側と本州中部太平洋側,および北海道の漁獲量と正の相関関係があった。しかし,日本海側の各地域の漁獲量とは負の相関関係となっていた。第2主成分は,太平洋側南部と瀬戸内海および東シナ海の漁獲量と正の相関関係となっていたが,日本海北部とは負の相関関係となっていた。また,漁獲量の変動特性の違いを用いて現行の系群区分する問題点と改善箇所が指摘された。
漁獲可能量(TAC)の基礎となる生物学的許容漁獲量(ABC)は,今年の資源評価結果に漁獲制御規則を適用し翌年の値が算定される。ABC算定における時間遅れの資源管理への影響について検討した。スルメイカ秋季発生系群とマイワシ対馬暖流系群に対し,過去の時点からABC通りの漁獲を行った場合の資源の挙動を見た。結果は,再生産成功率,ABC前年の漁獲係数,年齢別体重等の変動が大きい場合には管理が失敗する可能性が高いことを示している。時間遅れの解消とともに,実態に即したシミュレーションでの検討が重要である。
立体フレームで較正したステレオカメラによる魚体計測を自動化するため,光学文字認識技術による立体フレーム上の特徴点の自動マッチング手法と,画像認識技術による魚体の計測部位の自動検出手法を開発した。較正と魚体計測の正確度,精度,処理時間を自動処理した場合と手動処理した場合で比較した。自動較正の正確度と精度は手動と同等で,処理時間は大幅に短縮された。自動魚体計測の処理時間も大幅に短縮されたが,正確度と精度は手動に劣った。魚体計測の性能向上に課題は残るが,ステレオカメラによる自動魚体計測が可能となった。
浮魚礁近傍のカツオの行動生態調査は超音波バイオテレメトリーにより行われてきたが,追跡範囲は制限されていた。そこで新手法として超音波受信システムとデータ通信端末を組み合わせた漁船搭載型受信システムを開発した。本研究では浮魚礁周辺で操業する漁船に開発したシステムを搭載し,カツオの行動生態調査における有効性を検証した。その結果,追跡範囲の拡大,GPSによる個体位置情報の取得,1年を超える長期間の追跡に成功した。また,携帯通信網を介したデータの自動収集によってデータ回収の効率化を実現した。
宮崎県沿岸のオオニベについて,耳石横断薄片法を用いて年齢と成長の解析を行った。年齢が判っている放流魚142個体について,年齢と不透明帯の計数結果は100%一致していた。採捕されたオオニベの全長は99-1110 mmであり,年齢範囲は0+から10+歳であった。3+歳で全長約800 mmに達するが,その後5+歳にかけて成長は鈍化した。雌雄込みの成長式はTLt=1089{1−exp[−0.364(t+0.142)]}と推定された。雌雄ともに成熟全長は800 mm,成熟年齢は4歳であることが判った。
サンゴ礁の二枚貝シャコガイ類は,幼生期に環境中の褐虫藻を取り込み生存に必須な共生関係を構築するが,人工的な共生成立が困難で種苗の初期生残率は低い。生残率向上のため,幼生に与える褐虫藻の由来と,褐虫藻の添加頻度に着目した。小規模ボトル実験から,成長の観点で添加頻度は2日に1回が良いと考えられた。種苗生産規模で幼生に複数の小型ヒレジャコ由来褐虫藻を与えると生残率〔平均(最小-最大)%〕は21.4(20.9-21.7)%で,中型ヒレジャコ由来褐虫藻を与えた時の9.4(8.0-10.9)%より高かった。
網走湖ヤマトシジミの2008年級について殻長組成調査と現場飼育実験で成長を追跡して瞬間成長係数,成長式,および年齢別殻長組成を算出し,漁獲サイズまでの成長と年齢を明らかにした。成長は主に水温15℃以上の6-9月の夏期にみられた。成長式は季節的成長周期を考慮したvon Bertalanffy式が選択された。網走湖のヤマトシジミは本州の産地よりも2歳までの初期成長が著しく遅く,2,3歳夏に成長が進んだ。漁獲サイズ(殻長23.3 mm)への到達は大型群が4歳夏で,主群が5,6歳夏であると示唆された。
宇和島湾周辺海域における有害渦鞭毛藻Karenia mikimotoiの出現特性を明らかにするため,本種赤潮が発生した2018年と非発生だった2019年に現場調査を行い,取得データを解析した。2018年はK. mikimotoiが宇和島湾で高密度化後,周辺海域に分布拡大しており,その動態への河川流入に伴う淡水・栄養塩供給と移流による輸送の影響が示唆された。2019年は遊泳細胞が低密度で越冬していたものの,増殖環境や暖水波及(急潮)の影響,競合種の存在によって,高密度化しなかったと推察された。
サクラマスの遡上範囲拡大のため,2012年および2013年に秋田県米代川水系3支流において,サクラマスが遡上できない構造の河川工作物に対し,人力で設置できる簡易魚道を設置した。まず工作物直下のコンクリート部分の水深を増加させ,その中に,2段式の魚道を設置した。その結果,降海型(全長480-630 mm)9個体と河川残留型(103-280 mm)104個体の遡上が確認された。本研究で開発された簡易魚道は,サクラマスの遡上障害解消の手段として有効であることが確認された。
伊勢・三河湾のスナメリ新生仔の漂着・混獲個体の筋肉を用いて,炭素・窒素安定同位体比の経年変化を調べた。その結果,1995-2018年にかけてδ13Cでは1.3‰程度の低下がみられたが,δ15Nでは明確な変化はみられなかった。他海域の海生哺乳類でも同様の傾向が報告されており,環境変化に伴う生産者のδ13Cの低下が要因の一つとされている。当海域では23年間で食物連鎖における濃縮係数と同程度の低下がみられたことから,採取年の異なる標本を用いて食性を解析する際にはこれに留意する必要がある。