年齢構成をもつが再生産曲線を用いない資源動態モデルを用いた推定方法を開発しニギス太平洋系群の資源量を推定した。データは1980-2018年の漁獲量と資源量指数,1970-2009年の漁獲係数の平均の推定値,生物特性値である。推定値の誤差評価はBootstrap法で行った。Base caseの推定結果では親魚量は965 (SE: 161)-3,069 (515)トンで,20年程度の周期的変動があること,また漁獲係数は徐々に減少し続けていることが示された。推定方法の特色や改良などについて議論した。
種々のアユ種苗が放流されている淀川水系では,海産アユ,琵琶湖産アユのいずれの系統が定着して再生産に貢献しているのか明らかになっていない。淀川水系におけるアユ系統の繁殖貢献および分布を解明するため,産卵場のアユ,河口域および沿岸域のアユ仔稚魚および遡上アユについてマイクロサテライトDNA多型解析による系統判別を行った。いずれの生活期の標本群においても,海産系統に帰属する個体が多かったが,琵琶湖産系統に帰属する個体も認められた。また,琵琶湖産系統のアユが再生産を行っていることが示唆された。
鹿児島県北西部の長島では,東シナ海に面した場所の褐藻アントクメ群落が環境省モニタリングサイト1000によって2010年から毎年調査されている。本種の消失が2016年の調査で確認されたことから,長島沿岸の藻場の分布状況を2019年に調査し,2005年の結果と比較した。その結果,本種の群落は長島の東シナ海に面した沿岸の広域で消失し,八代海側でのみ見られた。また,ヒジキを含むホンダワラ類も東シナ海に面した沿岸から消失していたことから,東シナ海側と八代海側で藻場の状況が大きく異なることが明らかになった。
壱岐島西岸の和歌地先において2004年から2018年まで水温の測定と,年に1回のカジメ科海藻の鉛直分布調査を行った。夏季の水温が低かった2004-2007年に鉛直分布は拡大した。夏季の水温が高かった2010, 2013, 2016年には葉状部を失った藻体が多く見られた。それらの翌年には成体密度が大きく減少したが,2011, 2014年には高密度の加入により藻場が維持された。2017年は加入がわずかで,2018年にはカジメ科海藻は成体・幼体ともに確認されなかった。
チャネルキャットフィッシュによる張網漁獲物の捕食実態を把握するため,2016年6-8月と2017年3-8月に霞ヶ浦で張網により採集した個体の食性を精査した。本種は張網に同時に入網するワカサギ,シラウオ,ウキゴリ,テナガエビを主に食べていた。体長20 cm以上の個体は自然環境下と比べて胃充満度指数が極端に高く,張網内でそれらを摂餌したと考えられた。張網内での漁獲物の被食率はワカサギで74%,シラウオで80%,ウキゴリとテナガエビで30%以上と推定され,張網漁業への甚大な影響が懸念された。
佐世保湾における有害赤潮予察を目的として,2013-2019年にモニタリングを実施し,出現環境と比較した。シスト調査は2013年と2018年に行った。Heterosigma akashiwoの赤潮は5月下旬に水温20-23℃で発生した。Karenia mikimotoi赤潮は毎年発生し,1-4月の累積水温もしくは12-3月の累積気温が高い年に高密度化した。Chattonella spp.は2013-2015年に赤潮を形成した。本種シストは2013年に確認されたが,2018年には検出されなかった。
魚類養殖は残餌や糞粒などの多量の有機物を負荷する。我々は養殖の盛んな内湾で柱状堆積物試料を採取し,全有機態炭素(TOC),全窒素(TN)および全リン(TP)の鉛直分布を明らかにした。魚類養殖場のTOCとTNの分布は非養殖場と同様の鉛直分布を示したが,TP含量は非養殖場よりも高かった。餌のTP含量は小魚の小骨に由来するもので高く,魚類に消化されにくく,且つ堆積物中で分解されにくいと考えられる。TP含量を指標にして,魚類養殖による有機物負荷が明らかにできる可能性が考えられた。
カビ毒による水産飼料の汚染実態を調査するため,水産飼料中のトリコテセン系カビ毒10種を対象とした一斉分析法を検討した。多機能カラム及びグラファイトカーボンカラムにより精製効果の高い前処理法を構築し,UHPLC用のC18カラムを用いることで高速かつ頑健性の高い分析法を確立した。本分析法を市販の水産飼料に適用したところ,多くの飼料からデオキシニバレノールやモディファイドマイコトキシンなど数種のカビ毒が検出された。これらにはいずれも小麦粉が配合されており,原材料である小麦粉の汚染の可能性が示唆された。