軽いモザイク症状を示しているスイセン(大杯)から汁液接種により分離されたウイルスについて諸性質を調べ,同定した。
(1) 15科46種の植物に汁液接種したところ,13科36種の植物に感染が認められた。感染が認められた植物はアカザ,ヒユ,ツルナ,ナデシコ,アブラナ,マメ,スミレ,セリ,ナス,ゴマ,ウリ,キク,ヒガンバナ科などのもので,感染がまったく認められなかったのはユリ科とイネ科であった。
C. amaranticolor,インゲン,タバコ,ペチュニア,キュウリなどに特徴ある病徴を生じ,これらは判別植物として用いうる。
(2) モモアカアブラムシによる伝搬は認められず,ダイズにおける高率な種子伝染と線虫(
X. americanum)による土壌伝染が認められた。
(3) 耐熱性は55-65°C,耐希釈性は500-5,000倍,耐保存性は7-14日(20°C)であった。
(4) 部分純化した標品について電顕観察したところ径25-30mμの球状粒子が認められた。
(5) 部分純化したウイルスを用いて作製した抗血清は沈降反応混合法で64倍の力価を示した。本ウイルスは寒天ゲル拡散法でtomato black ring virus, arabis mosaic virus, tobacco ringspot virusの抗血清とは反応せず,tomato ringspot virusとだけ特異的に反応した。なお,Dr. Harrisonの試験によればstrawberry latent ringspot virusとは反応しないという。
(6) 以上の諸結果から,本ウイルスはtomato ringspot virusと同定され,和名をトマト輪点ウイルスとした。本ウイルスを接種したスイセンの実生がなんら病徴を示さなかったので,原株の軽いモザイク症状と本ウイルスとの関係は明らかにできなかった。
(7)
X. americanumによる伝搬試験の結果は以下のようであった。すなわち,病株周辺土壌に健全ペチュニアを植え付けたところ,5株中3株に感染が認められた。また病株スイセン周辺で採取した土壌に本ウイルスを接種したペチュニアを植え付け2-3週間後にその土壌から集めた
X. americanum 1-50頭を用いてペチュニアとキュウリに伝搬試験したところ,ペチュニアでは11株中6株,キュウリでは4株中4株に感染が認められた。一方
X. americanumを除いた残渣を入れた対照区には発病がみられなかった。
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