日本水産学会賞:
潮 秀樹,益田玲爾
日本水産学会功績賞:
虫明敬一,山下 洋
水産学進歩賞:
井上 晶,西川哲也,細谷 将
水産学奨励賞:
板倉 光,松井英明
水産学技術賞:
米山和良,坪井潤一
海産有用魚類の比較生殖生理学 ―飼育実験系の構築とその応用―
Comparative Reproductive Physiology of Commercial Marine Fish ―Construction of Experimental Breeding System and Associated Applications―
脊椎動物の配偶子形成は,脳-脳下垂体-生殖腺を結ぶ生殖内分泌軸(BPG-axis)を構成する各種制御因子の多様な情報が伝達,統合されることにより引き起こされる。種数が多く繁殖様式も多様な魚類での研究は,取扱いが容易なメダカ等の小型モデル種やサケ科魚類を中心に進められてきた。松山倫也氏は,複数の分類群にわたる海産有用魚類を対象とした飼育実験系を構築することにより,魚類に共通するBPG-axis制御機構と種独自の機構を見出し,この実験プラットフォームの利用により,水産増養殖や水産資源管理が直面する重要課題を解決する応用研究を行った。
(京大フィールド研セ 山下 洋)
以西底びき網において,漁具抵抗低減のため網目の拡大,網地量の削減,フラッパーの廃止,グランドロープの軽量化を複合的に適用した低抵抗網を作製した。低抵抗網と従来網の曳網を一組として計25組の操業試験を実施し,曳網時の燃料消費量を比較した。その結果,低抵抗網曳網時の燃料消費量は従来網曳網時の83.3–95.3%まで削減された。一方,一曳網当たりの総水揚量と主要種の平均水揚量は低抵抗網と従来網で有意な差は見られず(p > 0.05),漁獲への影響を抑えつつ操業の省エネルギー化が実現可能なことを確認した。
国内4県9地点の湖沼河川においてライトトラップによる外来魚(オオクチバス,コクチバス,ブルーギル)仔稚魚の捕獲試験を行った。青色LEDを点灯させたライトトラップにおいて18,409個体を捕獲し,浮上初期ほど捕獲個体数が多くなる傾向が認められた。また,透視度100 cm未満の環境においても捕獲され,濁った湖沼でも駆除可能であることが確かめられた。本手法により,これまで困難であった外来魚仔稚魚の捕獲を少ない労力で効率的に行うことができた。ただし,混獲を抑えるため設置の場所や時期を考慮する必要がある。
加入年齢をモジャコ期終了後とし,モジャコ採捕の影響を考慮したRicker型再生産式を導いた。1994–2020年のVPAの結果を用い,加入量,親魚量及びモジャコ採捕尾数の値から未知パラメータを推定した。その結果,1994–1996年のモジャコの自然死亡係数の平均は0.12(月当たり),2018–2020年のそれは0.31と増加傾向であった。
効果的なホンモロコ資源管理策を構築するために,産卵場所である琵琶湖内湖の伊庭内湖に流入する新山路川で2021年と2022年の4月から6月にかけて,たもすくいでホンモロコの産卵親魚の採捕を行い,CPUE,性比,成熟状況などの採捕特性を明らかにした。4月下旬から6月上旬にかけて1人1時間当たり10尾から50尾採捕することができ,5月中下旬は採捕効率が高く雌の割合が高かった。採捕個体は,期間を通して雌雄ともに生殖腺指数が高かった。たもすくい遊漁は,産卵中のホンモロコを効率的に採捕できる漁法であり,その管理を今後検討することが必要である。
富山湾で採集したベニズワイガニChionoecetes japonicusを用いた約10年にわたる水温約0.7℃での飼育試験により,脱皮に伴う成長量(脱皮後甲幅−脱皮前甲幅),成長率(成長量/脱皮前甲幅×100[%])および脱皮間隔を調査した。366回の脱皮データより,甲幅6.2–96.9 mmでは雌雄ともサイズが大きくなるほど成長量が大きくなる一方,成長率は減少し,雌の方が雄よりも減少する割合が有意に大きかった。脱皮間隔はサイズが大きくなるほど長く,甲幅約45 mm以上では1年以上となった。
この研究は,キジハタ仔魚の沈降による死亡の原因を解明するため,仔魚個体の体密度を経時的に計測した。ふ化後の仔魚は,2日齢12時[DAH2(12 h)]に飼育水密度と同程度である1.023±1.387×10−3 g cm−3(Ave.±SD)の値を示し,その後も上昇した。同時に,全長の収縮を呈したことから,この時点における体密度の上昇は,重量の増加よりも体積の減少により起因すると考えられ,この期間より対策を講じる必要があると示唆された。
排水処理場で高密度発生するウスベニイトミミズを養殖魚の餌として利用するため,その飼育に効果のある餌を探索した。当該排水処理場の汚泥を与えると,4週間飼育後には,ふ化直後(体長2.7 mm,体重0.040 mg)より,体長5.4倍,体重換算26.6倍に成長した。汚泥代替の安全な餌として,魚粉,米ぬか,ホウレンソウ,酵母を検討し,酵母が汚泥と同程度の成長比(約5倍),成長速度(0.6 mm/日)および生存率(80–90%)を示した。酵母ベースの食品廃棄物の酒粕,焼酎粕も餌として利用可能であった。