昭和35年夏期と36年2月との2回, 長野県塩田町保野・別所・新町・石神の4部落民119名を対象として栄養調査を実施した。
また, 夏と冬との間の5カ月間15種の栄養剤とホルモン剤を服用させ, 冬期にその効果を調べた。その結果次の結果を得た。
(1) 生体測定 本対象は農民ではあるが, 副業の多い多角経営であるためか, 彼等の体型はこれまで調査した東北地区の典型的な農民の示した重筋的タイプではなく, 農民と都会人との中間の体型であつた。
即ち, 農民としては, 細長型で皮下脂肪もかなり発達し, 純筋性体成分の持主ではなかつた。
(2) 基礎代謝は日本人の基準値より約1割高いが, 東北農民の値よりやや低い傾向を示した。
(3) 血液性状として, 血清蛋白濃度が全血比重の割に高いことは過去の東北農民の血液像と全く同じで, この興味ある血液像については今後の検討が期待される。
血清コレステロール濃度は男女とも日本人としては高い方で, 殊に高血圧者のそれは明かに高い。
また, コレステロール濃度は皮下脂肪厚の厚い方が明かに高い。
(4) 尿性状として, 1日間の窒素排泄量は東北農民同様極めて少く, 日常の蛋白摂取量の少いことを物語つている。
また, クレアチニンや17ケトステロイドの排泄量も正常値よりかなり低く, かつ, 高血圧者では17ケトステロイドの排泄量が著しく少い傾向がみられた。
塩化ナトリウムの排泄量は1日15~19gで, この農民では食塩が多く摂取されているとは考えられない。
男子については, アドレナリン及びノルアドレナリンも測定されたが, 血圧との関係は認められなかつた。
また, 糖・蛋白の陽性者は女子に1名ずつ発見され, ビタミン欠乏症候を有するものは全員の約3分の1であつた。
(5) 栄養剤投与の結果, 最高血圧の低下に最も効果を挙げたものはB
6及びリジンであり, C, レシチン, メチルテストステロンにも低下させる傾向が認められた。
また, 最低血圧の低下にはメチルテストステロンが最も効果を表わし, 他の投与剤も低下させる傾向を示すものばかりであつた。
血清コレステロールの低下には, メチルテストステロンの効果が抜群で, パントテン酸, アリナミン, サフラワオイル, エストリオール, オロチン酸, B
6, ナイアシン等も明かに効果を示した。
抄録全体を表示