昭和32年9月と同33年2月の2回にわたり, 岩手県北上平野江釣子村及び金ケ崎町の農民110名について精密検査を実施し, 同時にその間半年間不足している栄養剤を投与してその効果をみた。
調査成績の概要は次のように要約される。
(1) 体型は全国民平均に近く, 山形県農民にみられた皮下脂肪の少い重筋農民型とは多少異り, むしろ都会人の体型に近い。
(2) 基礎代謝は標準値よりやや高いが, 山形農民より低く, この点に於ても典型的な重筋型とは多少異つている。
(3) 血液性状: 血清蛋白は正常値より高く, 血色素は多少低いが山形農民に比べると栄養状態は良好である。コレステロールは正常範囲の上限界に近く, 山形県農民よりかなり高い。血清クロールは正常範囲をこえるくらい高いが, 血圧による差は著明ではない。
(4) 尿性状: 尿量は一般に多量ではなく, 血圧別にみると高血圧者の方が少いが, この点山形県農民と同傾向にある。窒素・クレアチニン・17-ケトステロイド等の排泄は何れも少く, しかも血圧別にみると高血圧者の方が少い。食塩の排泄量は普通より多いが, 血圧別には高血圧者の方が少い。
(5) 栄養剤の効果: 栄養剤及びホルモン剤の半年間投与による効果をみると, 血圧とコレステリンを最も低下させたものはメチルテストステロン及びコーンオイルであつた。前者は早老に対し, 後者は動脈硬化に対し効果を及ぼしたものと思われる。その他のビタミンA・B
1・B
2・C等は, それぞれの不足症状に対しては多大の効果を表わしたが, 血圧やコレステリンの低下に対してはそれほどの効果を及ぼさなかつた。但し, 各ビタミンの投与量はほぼ一日の所要量であつたから, 大量投与の効果についてはなお検討の余地がある。
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