栄養学雑誌
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81 巻, 6 号
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原著
  • 百木 和, 辻 多重子, 羽生 大記
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 6 号 p. 279-287
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住高齢女性を対象に,サルコペニア等に関連する位相角低下者の特徴を明らかにするとともに,食品摂取多様性評価票を用いた摂取食品群との関連を検討した。

    【方法】本研究は横断研究である。2014年7月から2021年9月の期間,月1回程度開催される通いの場に参加し,同意を得た232名の初回測定値を解析に用いた。調査項目は,身体計測値(身長,体重,握力,下腿周囲長),Mini-Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF),体組成分析,食品摂取多様性評価とした。

    【結果】位相角重度低下者では年齢が有意に高く,サルコペニア該当割合も増加し,骨格筋量,四肢骨格筋指数(Skeletal muscle mass index:以下SMI)は有意に低下した。多項ロジスティック回帰分析の結果,位相角軽度低下に対しいずれの食品群も有意ではなかった。一方,位相角重度低下に対し,年齢,MNA-SFはいずれのモデルでも有意であった。牛乳・乳製品に関しては,「2日に1回以下」を基準とした場合に,「ほとんど毎日」摂取することが,位相角低下リスクの低減に有意に寄与していた(オッズ比0.39(95%信頼区間0.16~0.93))。

    【結論】位相角重度低下者では年齢が有意に高く,サルコペニア該当割合も増加し,骨格筋量,SMIは有意に低下していた。位相角低下には牛乳・乳製品を「ほとんど毎日」摂取することがリスク低減に寄与していたが,他の食品群との関連は認められなかった。

研究ノート
  • ─食・栄養知識,食・生活習慣セルフエフィカシー,食行動変容ステージとの関連─
    木林 悦子
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 81 巻 6 号 p. 288-298
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】高校生の食・栄養知識と食・生活習慣セルフエフィカシー,食行動変容ステージ及び食事摂取状況における因果構造的な関連を検証する。

    【方法】兵庫県A市の公立高等学校に在籍する2021年度2年生278名のうち,回答が得られた254名を対象とした。食・栄養知識は中学校で学習する15項目の尺度を用い,信頼性を確認するとともに,これが影響する観測変数として,食・生活習慣セルフエフィカシー (12項目),食行動変容ステージ (Transtheoretical Modelに基づいた5段階),食事摂取状況 (日本人の食事摂取基準をもとにスコア化) を用いた仮説モデルを立て,共分散構造分析をした。

    【結果】本仮説モデルの配置不変性を検討した結果,許容範囲の適合度が得られ (χ2=192.145,df=134,GFI=0.917,AGFI=0.851,CFI=0.955,RMSEA=0.041,AIC=404.145),男女ともに食・栄養知識が,食・生活習慣セルフエフィカシーに有意な正のパス (標準化推定値:男子0.60,女子0.55,共にp<0.001),そこから男子では食行動変容ステージへのパス (0.25,p=0.033) を介して食事摂取状況 (0.20,p=0.028) に影響を及ぼす間接効果が示された。

    【結論】高校2年生では,男女ともに中学校で学習する食・栄養知識が高いほど食・生活習慣セルフエフィカシーが高くなり,さらに男子では,食行動変容ステージの向上を介して,食事摂取状況に影響を及ぼす可能性が示唆された。

  • 福村 智恵, 岡林 恵, 由田 克士, 田畑 正司
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 81 巻 6 号 p. 299-309
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,運転業務を主とする男性勤労者における尿中ナトリウム (Na)/カリウム (K) 比と食塩および野菜摂取状況を定期健康診断 (健診) において把握し,Na/K比低減と高血圧者に対する保健指導および高血圧予防に向けた本職種の課題を明確にすることを目的に実施した。

    【方法】対象は石川県の運輸系事業所の20歳以上の社員のうち,男性社員492名 (22~70歳) であった。2020年7・8月に実施した健診時に食塩および野菜摂取状況,生活習慣等に関する自記式質問紙調査を実施した。また随時尿の尿中Na,尿中K等を測定し,推定24時間尿中Na/K比を算出し,その四分位範囲により対象者を4群 (Ⅰ群:3.25未満,Ⅱ群:3.25以上3.78未満,Ⅲ群:3.78以上4.41未満,Ⅳ群:4.41以上) に分け解析を行った。

    【結果】対象者全体で血圧高値該当者の割合は65.2%,推定24時間食塩摂取量の平均値は 9.7±2.2 g/日,塩分チェックシート合計得点の中央値は13.0点であり,いずれもⅣ群で最も高値を示した。1日合計野菜料理摂取皿数は対象者全体の中央値が2.2皿であり,群間に有意差がなく,夕食,昼食,朝食の順に少なかった。

    【結論】本職種は血圧有所見者の割合が高く,推定24時間尿中Na/K比の高い者のみならず,事業所全体で減塩と野菜摂取増加に向けた食生活支援が必要であると考えられた。

  • ─歴史と推進体制,食の圧縮近代における課題─
    上田 遥
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 81 巻 6 号 p. 310-318
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】 台湾の学校給食を,特に献立作成と食材調達に着目して包括的に明らかにする。

    【方法】 政府資料の文献調査および給食団体と栄養士4名にインタビュー調査を実施した。

    【結果】 台湾の学校給食は,高い普及率を達成し,近年には品質・教育面の改善が進み,少なくともアジア諸国の中では比較的発達した制度の一つとなっている。2013年の学校健康法改訂で栄養基準が導入され,2017年開始の「四章1Q」政策のもとで付加価値のある農産物(地場産,有機,生産履歴など)の給食導入も進められてきた。本稿ではまた学校給食現場における献立作成と食材調達の具体的プロセスも報告した。台湾におけるこうした学校給食の制度的発達は,近年勃発する食品安全に関する事件,栄養問題,フードシステムのグローバル化など食生活・食環境の急激な近代化(食の圧縮近代化)に対応するものであった。しかしその変化の急速さゆえに,給食費用とコストの分担,専門性の確保など,いくつか重要な問題が解決されずにいる。

    【結論】 こうした国内的課題はあるが,付加価値のある農産物導入や給食無料化をめぐる台湾の経験は,日本を含むその他の国々にも有用な示唆を与えるものである。

  • ─クラスター分析を用いた検討─
    外川 恵, 武見 ゆかり, 林 芙美, 石川 みどり
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 81 巻 6 号 p. 319-334
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】適切な食事には調理等の準備が必要である。独居高齢者の調理状況を分類し,食事内容との関連を検討した。

    【方法】2013年9~12月,埼玉県坂戸市の独居高齢者135名 (男性60名,女性75名) に,質問紙と3日間の食事記録を行ったデータを用いた横断研究である。調理状況 (21項目) は食事記録の料理ごとに1項目をあてはめ,3日間の出現回数を用い,男女別にクラスター分析にて調理状況タイプを分類した。各タイプの特性,栄養素等摂取量,料理区分別サービング (SV) 数,主食・主菜・副菜を組み合わせた日数,食品摂取多様性スコア (DVS) をFisherの正確確率検定,Kruskal-Wallis検定にて比較した。

    【結果】男性は「煮炊・漬ける型」6名,「煮炊・一次加工食品型」20名,「なべ物型」26名,「購入型」8名の4タイプ,女性は「煮炊・漬ける型」32名,「購入型」10名,「煮炊・一次加工食品型」33名の3タイプに分類された。煮炊・一次加工食品型において,男性では他のタイプに比して副菜と牛乳・乳製品のSV数,カルシウムが,なべ物型に比して主食・主菜・副菜を組み合わせた日数とDVSが4点以上の者が多く,女性では他のタイプに比して主菜のSV数,食物繊維総量が,煮炊・漬ける型に比して牛乳・乳製品のSV数,カルシウム摂取量が多かった。

    【結論】煮る・炊くといった調理と一次加工食品の利用を組み合わせた食事の準備は,多様な料理や複数のビタミン・ミネラルを多く含む食事につながると示唆された。

実践活動報告
  • 岩田 瑠美, 信田 幸大, 衞藤 久美, 矢賀部 隆史, 深井 善雄
    原稿種別: 実践活動報告
    2023 年 81 巻 6 号 p. 335-348
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】セネガル共和国ニャイ地区で市場志向型農業振興 (SHEP) アプローチ導入済み農家が向上した収入の一部を自発的に食生活の改善に支出していたが,食生活実態調査の結果,必ずしも栄養改善につながる活用がされていなかった。また貧血が対象地域の主な健康課題として抽出された。そこで,「SHEP導入による収入向上」を前提とした栄養改善事業の実施可能性を検討するために,健康的な食事を通じた貧血の改善・予防に焦点をあてたパイロット活動の実施と評価を試みた。

    【方法】SHEP導入による収入向上が確認された地域で,現地のコミュニティ構造,食環境及び教育レベルを考慮し,次の4つの活動を実施し,各活動の経過・影響評価を行った:1) 正しい食知識を住民に伝える講師の育成,2) 食事作り担当者への健康的な食事や貧血改善・予防についての教育,3) 学習内容の実践・強化のためのイベント,4) 食料品店を通じた消費者への食品の栄養に関する情報提供。

    【結果】経過評価の結果から,活動内容,実施方法,教材,全体の満足度に関する評価が高かった。また影響評価の結果から,健康的な食事を通した貧血改善・予防についての知識・態度・スキルが改善した参加者が9割以上だった。

    【結論】試行したいずれの活動も円滑に実施され,それらの評価から「SHEP導入による収入向上」を前提とした栄養改善事業はセネガル共和国ニャイ地区において実施可能と判断された。

資料
  • ─諸外国の摂取基準と日本の現状をふまえて─
    藤原 綾, 朝倉 敬子, 佐々木 敏
    原稿種別: 資料
    2023 年 81 巻 6 号 p. 349-358
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/22
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】日本における糖類の基準値策定を検討するため,諸外国の糖類摂取基準の概要を把握し,糖類基準値の策定上・活用上の課題を整理した。

    【方法】2022年11月~2023年2月の間と2023年10月に12の国・地域 (アメリカ・カナダ,イギリス,フランス,ドイツ,オランダ,北欧・バルト諸国,オーストラリア・ニュージーランド,中国,台湾,韓国,欧州連合,世界保健機関) を対象として,糖類摂取基準の策定年,糖類の種類,指標の種類,基準値,年齢区分,対象疾患,摂取量の代表値の情報を抽出した。この情報と日本の現状を鑑みて日本における糖類基準値の策定上・活用上の課題を整理した。

    【結果と考察】調査対象のうち9つの国・地域が糖類摂取基準を策定しており,そのほとんどが小児と成人に対して,食品加工・調理中に添加された添加糖類又は遊離糖類の摂取量を総エネルギー摂取量の10%未満又は5%未満にするよう推奨していた。対象疾患としては齲蝕,肥満,糖尿病,脂質異常症,メタボリックシンドローム,がんのような慢性疾患のほか,必須栄養素の摂取量との関連が挙げられていた。日本における糖類基準値の策定と活用に際しては,糖類の定義,基準値の設定,対象疾患の選定,摂取実態のアセスメント等について,糖類特有の課題や日本独自の課題が存在することが明らかになった。

    【結論】日本においてはこれらの課題をふまえて糖類基準値の策定を検討する必要があると考えられる。

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