栄養学雑誌
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77 巻, 6 号
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原著
  • 石長 孝二郎
    原稿種別: 原著
    2019 年 77 巻 6 号 p. 145-153
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】がん治療中患者の食事苦情の訴えを考察するための予備的検討として,女子大学生を対象に,食べ物の咀嚼中に発生したニオイをレトロネーザル経路でどの程度感知しているか,また,“おいしさ”の評価との関連を検討した。

    【方法】食材試料はグレープフルーツ,煮魚,ヨーグルトとし,さらに各々に香味野菜パクチー液を混入した計6種類とした。ニオイ分析はにおい識別装置を用いた。観察研究は鼻栓をした摂食状態と鼻栓をしない摂食状態でパクチーの感知の評価,および鼻栓をしない摂食状態でおいしさの評価をVisual Analogue Scaleで実施した。

    【結果】鼻栓をしてレトロネーザル知覚を封鎖することで,すべての食材試料中でパクチーの感知評価が大きく低下した(p<0.001)。また,パクチーの感知とおいしさの評価には負の相関が認められ,パクチーを強く感知した場合にはおいしさの評価が低下した。

    【結論】ヒトの訴える味の感想は,味覚感知だけではなく,咀嚼・嚥下時に空気中に拡散したニオイが口腔から咽頭,そして鼻腔へと抜けた呼気によるレトロネーザル経路による嗅覚の感知もあり,味覚と混同しやすいことがわかった。また,ニオイに誘発される嫌悪は,ニオイの全体から特定の嫌悪を感じるニオイを認識した時においしさの評価が低下することが考えられた。

研究ノート
  • 岡本 香, 村田 浩子, 西山 英子, 田口 素子
    原稿種別: 研究ノート
    2019 年 77 巻 6 号 p. 154-166
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】男性持久系競技者を対象とした食事記録法の栄養評価における食品重量見積もり誤差の特徴を明らかにすることである。

    【方法】筆者らの研究室に蓄積された食事記録法のデータベースから,競技者及び非競技者を対象とした食事記録を抽出した。これらに基づいて作成したモデル献立の写真と食事記録票を栄養評価者に配布し,食品の選択及びその食品番号と見積もり重量の記入を依頼した。その後,筆者らが栄養素等摂取量を算出し栄養評価値を得た。モデル献立の基準重量と評価者に依頼した見積もり重量との誤差及び基準値と栄養評価値との誤差を比較した。

    【結果】競技者モデル献立の基準値と栄養評価値との間に,10%以上の過小評価が認められたものはエネルギー及び炭水化物(それぞれ平均値で-13%,-16%),過大評価が認められたものはビタミンA及びビタミンC(それぞれ40%,10%)であった。エネルギー及び炭水化物への寄与率が高かったご飯の見積もり重量に有意差が認められ,基準重量に対し23%の過小評価が認められた。また,ビタミンAへの寄与率が高かったにんじん,ほうれん草は基準重量に対しそれぞれ48%,68%の過大評価が認められた。ビタミンCへの寄与率が高かったほうれん草は基準重量に対し68%の過大評価が認められた。

    【結論】男性持久系競技者を対象とした食事記録法の栄養評価においては,ご飯と緑黄色野菜の重量見積もり誤差が大きいという特徴があることが示唆された。

実践活動報告
  • 福田 里香, 出口 純子, 井元 淳, 豊永 敏宏, 岩本 幸英
    原稿種別: 実践活動報告
    2019 年 77 巻 6 号 p. 167-175
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】男性単身世帯者が簡便に実施できる「野菜摂取量増加」と「食事量を腹八分目にする」に重点をおいた介入プログラムを作成・実践し,野菜摂取量や体組成に変化があるか否か検証した。

    【方法】研究デザインは,単群の前後比較試験とした。2企業で働く単身世帯の健常男性16名(42.4±5.4歳)を対象とした。介入期間は12週間で,初回に前述2項目を実施するための行動目標を対象者が設定し,行動目標実行度を10段階評価で4回聴取した。それぞれの企業の会議室にて,各企業4,5人のグループで30分程度の調理実演を2回実施した。評価項目として食事調査は半定量食事摂取頻度調査を用いてエネルギーおよび食品群別摂取量(1,000 kcalあたりで表示)を算出した。また身体活動量,体組成,内臓脂肪面積および皮下脂肪面積の測定を行なった。各項目について介入前後で比較検討を行なった。

    【結果】行動目標実行度は,「今よりも野菜の摂取量を増やす」では上昇傾向に,「食事量を腹八分目にする」では下降傾向であった。介入前後でエネルギー摂取量に有意な差は認められなかったが,緑黄色野菜とその他の野菜の摂取量は有意に増加した。また,体脂肪率は減少傾向にあり,骨格筋率,上腕筋肉率,体幹筋肉率が有意に増加した。

    【結論】対象者が自ら決定した行動目標実行度の聴取や手軽で簡単な調理を実演することで行動変容が促され,野菜摂取量は増加し,体組成に変化がもたらされた。

資料
  • ─比較のための参照データ─
    田島 諒子, 佐々木 敏
    原稿種別: 資料
    2019 年 77 巻 6 号 p. 176-182
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】 食事摂取基準等を適切に策定するため,日本人の成人において習慣的な栄養素摂取量の分布を推定した。

    【方法】 31~49歳の男性54名,51~81歳の男性67名,31~49歳の女性58名,50~69歳の女性63名を対象に,1年にわたり各季節4日間ずつの食事を秤量式食事記録法により評価した。計16日間の食事記録データを用い,best-power法により習慣的な栄養素摂取量の分布を推定した。また16日間から個人レベルでランダムに1日を選び,1日摂取量の分布を推定した。

    【結果】 エネルギー,7つの主要栄養素,12のビタミン,9つのミネラルの習慣的摂取量を推定した。習慣的摂取量の中央値と1日摂取量の中央値には,5つの主要栄養素,10のビタミン,3つのミネラルで違いが見られた。

    【結論】 本資料により,日本人男女の習慣的な栄養素摂取量の分布が示された。本資料は科学的根拠に基づいた食事摂取基準の策定に役立つと言える。

  • 越田 詠美子, 岡田 知佳, 岡田 恵美子, 松本 麻衣, 村井 詩子, 瀧本 秀美
    原稿種別: 資料
    2019 年 77 巻 6 号 p. 183-192
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】国民の食品・栄養素等摂取状況を把握するため,日本で実施されている国民健康・栄養調査と,諸外国における同様の調査とを比較・検討することを目的とした。

    【方法】栄養調査に関する情報は,オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,フィンランド,ドイツ,日本,韓国,ロシア,イギリス,アメリカの11か国について,各国の調査担当機関のホームページ等から収集した。

    【結果】調査の実施機関の多くは,主に自国の機関であったが,他国と共同で実施している国もみられた。世帯を対象としている国と,個人を対象としている国が約半々であった。対象年齢は,子どもと成人の両方を設定している国がほとんどであった。日本では,厚生労働省が健康増進法に基づき,調査地区を管轄する自治体に調査を委託しているが,諸外国では実施機関の職員等が担当していた。食物摂取状況調査は,11か国中8か国が24時間思い出し法を用いており,5か国が単独の調査法のみではなく,複数の調査法を組み合わせて行っていた。実施頻度は,継続的,定期的(毎年から数年に一度)または不定期であり,時期・期間は,通年の場合と一時点の場合とがあった。調査データの二次利用に際しては,申請を要する国,一部データのみ申請を要する国,申請不要な国があった。

    【結論】諸外国の栄養調査は,実施体制や方法等が多様であり,今後の日本での調査の実施において,参考になると考えられた。

  • ─首都圏における飲食店の事例的検討─
    齋木 美果, 新保 みさ, 赤松 利恵, 藤崎 香帆里
    原稿種別: 資料
    2019 年 77 巻 6 号 p. 193-200
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】東京都,神奈川県,埼玉県にある飲食店の定食が「健康な食事(通称:スマートミール)」(以降,スマートミール)の基準にどの程度適合しているか調べることを目的とした。

    【方法】店舗にて2食の定食の料理重量を測定し,その後栄養計算を行った。スマートミールの2段階の基準に沿って,定食を「650 kcal未満」「650 kcal以上」に分け,各々エネルギー量,食塩相当量,野菜等の重量(以降,野菜重量),エネルギー産生栄養素バランス(以降,PFC%E)の基準との適合の程度を記述統計にて検討した。

    【結果】25店舗の定食48食(解析対象96.0%)のうち,基準6項目全てを満たすものはなかった。「650 kcal未満」の定食(n=9,18.8%)のうち,エネルギー量の基準に適合するものは7食(77.8%),食塩相当量は6食(66.7%),野菜重量は4食(44.4%),PFC%Eのたんぱく質は4食(44.4%),脂質は1食(11.1%),炭水化物は4食(44.4%)だった。「650 kcal以上」の定食(n=39,81.3%)では,エネルギー量が12食(30.8%),食塩相当量は8食(20.5%),野菜重量は12食(30.8%),たんぱく質は22食(56.4%),脂質は9食(23.1%),炭水化物は13食(33.3%)だった。

    【結論】本研究で対象とした飲食店の定食でスマートミールの基準に合致するものはなかった。「650 kcal未満」の定食では,食塩相当量の基準に適合する定食が多かった。「650 kcal以上」の定食では,エネルギー量,食塩相当量に適合する定食が少なかった。いずれも,野菜重量とPFC%Eに適合する定食は少なかった。

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