栄養学雑誌
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69 巻, 6 号
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総説
  • 木戸 康博
    2011 年 69 巻 6 号 p. 285-293
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    摂取エネルギーは十分であっても,摂取たんぱく質が不足した時にクワシオコールが発症し,感染症などを併発しやすい。たんぱく質必要量は,身体の構造と機能を正常に維持するために必要な摂取量(代謝要求量)であり,食事たんぱく質必要量は,それらの要求量を満たす量である。たんぱく質必要量は,窒素出納法によって決定されてきた。しかし,窒素出納法にはその方法上様々な問題がある。指標アミノ酸酸化(IAAO)法は,窒素出納法とは原理が大きく異なり,窒素出納法の代替法として動物とヒトにおいて開発された。私たちは,指標アミノ酸酸化法を用いてラットと健康成人男性の食事たんぱく質必要量とたんぱく質の質を再評価した。その結果,指標アミノ酸酸化法は全てのライフステージ(幼児,小児,学童,成人,高齢者)の食事たんぱく質必要量の評価だけでなく,代謝要求量が大きく変化している術後,傷害,感染症などいろいろな病態時の食事たんぱく質必要量の推定,また,たんぱく質の質の評価にも利用できることがわかった。
原著
  • 串田 修, 村山 伸子, 入山 八江, 堀越 和美, 武見 ゆかり, 吉池 信男
    2011 年 69 巻 6 号 p. 294-303
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】「1日に野菜を5皿以上食べること」を目標とした行動変容ステージを評価するための日本版アルゴリズムと習慣的野菜摂取量及び認知的要因との関連を検討すること。
    【方法】新潟市内に社員食堂を有する20の企業施設に属する20~59歳の成人男性勤労者を対象に,2009年9月に自記式質問紙調査を実施した。野菜摂取量の測定は簡易型自記式食事歴法質問票を用い,認知的要因は知識及び自己効力感の尺度より把握した。行動変容ステージの評価は目標行動の実施度と行動変容の準備性の2段階で構成したアルゴリズムを用い,各関連について検討した。
    【結果】解析対象521名 (中央値42歳) の行動変容ステージは前熟考期58.5%,熟考期20.7%,準備期13.8%,実行期+維持期6.7%であり,これらと年齢との間には有意な関連 (p=0.028) がみられたが,BMIとの間には関連がなかった。1,000 kcal当たりの野菜摂取量は,中央値で前熟考期 88.2 g,熟考期 78.4 g,準備期 98.9 g,実行期+維持期 116.8 gとステージ間で有意な差 (年齢調整後 p=0.004) がみられ,認知的要因もステージ間で差がみられた。また,1日に食べる野菜の皿数と野菜摂取量との間には強い正相関が認められた。
    【結論】本行動変容ステージのアルゴリズムは,半定量的な野菜摂取量及び認知的要因との間に明確な関連がみられた。集団への評価指標としての活用等が考えられるが,個人への活用に際しては誤分類に留意する必要がある。
  • 会退 友美, 市川 三紗, 赤松 利恵
    2011 年 69 巻 6 号 p. 304-311
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】幼児の朝食共食頻度と幼児の生活習慣および家族の育児参加との関連を検討した。
    【方法】2009年9月,都内の幼稚園および幼保一元化施設に通う3歳以上の園児をもつ母親524名を対象とした。幼児の朝食共食頻度を目的変数として,生活習慣と家族の育児参加を説明変数に単変量および多変量ロジスティック回帰分析を行った。モデル1では,生活習慣,モデル2では,家族の育児参加に関する項目を投入した。
    【結果】朝食の共食頻度は,「ほとんど食べない」「週2~3日」「週4~5日」「ほぼ毎日」それぞれ,122名 (23.3%),167名 (31.9%),48名 (9.2%),187名 (35.7%) であった。朝食共食頻度が高いと回答した者は,夕食の共食頻度も高かった。多変量ロジスティック回帰分析 (ステップワイズ法) の結果,モデル1では,“食事時間の規則正しさ”(オッズ比[OR]:2.58,95%信頼区間[95%CI]:1.22-5.43),“間食の規則正しさ”(OR:1.83,95%CI:1.18-2.83),“起床時間”(OR:1.92,95%CI:1.26-2.95),“就寝時間”(OR:1.78,95%CI:1.14-2.78) が関連していた。モデル2では,“父親の前向きな育児参加”に関連がみられた (OR:1.75,95%CI:1.11-2.76)。
    【結論】本研究の結果から,朝食の共食頻度は,幼児の規則正しい生活習慣,および母親からみた父親の協力的な育児参加と関連がみられた。
  • 森下 紗帆, 高瀬 幸子
    2011 年 69 巻 6 号 p. 312-317
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】日本人の食事内容は高糖質・低脂肪食から低糖質・高脂肪食へと移行している傾向にある。肥満者や糖尿病の罹患率増加と栄養素摂取との関係について多くの報告があるが,ヒトの日常食に近似した糖質比率を総合的に検討した報告は少ない。そこで本研究ではラットを用いて食事中の適正な糖質エネルギー比率を検討した。
    【方法】糖質エネルギー比率と窒素出納の関係を幼若ラットおよび成熟ラットを10日間飼育し検討した。飼料はたんぱく質あるいは脂肪比率をそれぞれ一定にし,糖質エネルギー比率を増減 (30・50・60・70%) した。
    【結果】食事中たんぱく質が適当量 (20%カゼイン,飼料P) であればラットの成長は低糖質食でも高糖質食と同様であった。幼若ラットでは飼料Pの低糖質食群 (糖質エネルギー比率30%・50%,αコーンスターチ) で尿中窒素排泄量が減少し,見かけの体内窒素保留量が増加した。食事中脂肪が一定 (9%コーンオイル,飼料F) の場合,たんぱく質摂取量の増加に比例して尿中窒素排泄量は増加した。低糖質食による見かけの体内窒素保留量の増加が推察された。飼料Pと飼料Fのいずれも各群間の差異は成熟ラットに比べ幼若ラットで顕著であった。
    【結論】糖質エネルギー比率50%以下の低糖質・高脂肪食摂取は糖質およびたんぱく質代謝に影響を及ぼし,尿中窒素排泄量を減少させた。これは摂取たんぱく質から代謝されたアミノ酸由来の糖新生が亢進したためであると推察された。
  • ─特定健康診査における標準的な質問票を用いた検討─
    溝下 万里恵, 赤松 利恵, 山本 久美子, 武見 ゆかり
    2011 年 69 巻 6 号 p. 318-325
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】生活習慣全般をたずねる変容ステージの項目の回答が,各健康行動の実施と一致しているか,成人の男女を対象に検討することを目的とした。
    【方法】A健康保険組合で実施された標準的な質問票の回答を用いた(3,364名)。調査項目は,性別,年齢,BMI,生活習慣変容ステージ,健康行動(11項目:運動行動,食行動,喫煙行動,休養)であった。変容ステージごとの検討にはKruskal-Wallis検定とχ2 検定を用い,変容ステージの実行/維持期に関連する健康行動の検討には多変量ロジスティック回帰分析を用いた。
    【結果】変容ステージの分布は,前熟考期610人(18.1%),熟考期1,562人(46.4%),準備期521人(15.5%),実行期313人(9.3%),維持期358人(10.7%)であった。変容ステージの実行/維持期に関連する健康行動は,男性では定期的な運動(オッズ比〔OR〕=4.41,95%信頼区間〔95%CI〕=3.30-5.90),身体活動(OR=1.67,95%CI=1.26-2.23),歩行速度(OR=1.46,95%CI=1.11-1.91)であった。女性ではそれらに加えて朝食欠食(OR=1.62,95%CI=1.03-2.53),飲酒頻度(OR=1.70,95%CI=1.07-2.66),休養(OR=1.46,95%CI=1.04-2.03)も関連していた。
    【結論】生活習慣変容ステージの回答は,主に運動行動の実施と一致していることが示され,複数の健康行動の準備性をとらえるには複数の質問項目を用いる必要性が示唆された。
短報
  • 古屋 かな恵, 木村 友子, 内藤 通孝
    2011 年 69 巻 6 号 p. 326-334
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】女子大学生において,体格と種々の主観的健康度評価との関連を見出すこと。
    【方法】管理栄養士養成課程の女子大学生 (141名,19.1±0.4歳) を対象に,身体計測および骨密度測定,主観的健康度評価に関する自記式質問紙調査を実施した。BMIを基準にして,対象者を3分位法にて低値群,中値群,高値群の3群 (各群47名) に分け,群間比較を行った。
    【結果】各群のBMIは,低値群18.0±0.9 (15.45~19.03) kg/m2,中値群19.9±0.5 (19.05~20.82) kg/m2,高値群22.8±1.6 (20.84~27.73) kg/m2 であった。各群の骨量に有意差は認められなかった。質問紙調査では,自分自身を健康であると評価する者は全体の約8割を占め,群間に有意差はなかった。健康度チェックリストでは,中値群の健康度が高い傾向にあり,高値群と比較して有意差がみられた (p<0.05)。高値群は精神的健康度が特に低かった。疲労自覚症状は高値群が高い傾向にあり,中値群と比較して有意差がみられた (p<0.01)。高値群は集中思考困難などの精神的疲労に関する訴えが多かった。手足の冷えなどの不定愁訴や無月経の割合は低値群に多くみられ,身体的不調に関する訴えが多い傾向にあった。
    【結論】女子大学生における主観的健康度の評価は,BMI高値群 (20.84~27.73 kg/m2) と比較して,中値群 (19.05~20.82 kg/m2) の方が高いことが示された。
実践報告
  • 肘井 千賀, 江上 薫, 小池 城司
    2011 年 69 巻 6 号 p. 335-342
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    【目的】平成19年度から福岡市健康づくりセンターでは,食事バランスガイドに基づいたコンピュータソフトを活用して食育活動を行ってきたが,来所者にしか対応していなかった。そこで,百貨店の催事にこのコンピュータを設置したコーナーを併設し,より多くの市民を対象に食事バランスガイドの啓発活動を行うために栄養士が中心となって本事業を行った。
    【方法】2009年1月に,百貨店の催事で,簡易的な食事診断により1食分の献立を聞きとり,それに対して栄養士が個別に指導を行った。また,同時に栄養士業務の認知度等についてもアンケート調査を実施した。
    【結果】コーナーの参加者は278人,本調査の対象者は262人であった。食事バランスガイドの認知度は,内容認知21.8%,イラスト・名前認知44.1%および非認知34.0%であった。適量の1食分を選択した者は,認知群で18.0%,およびイラスト・名前認知群で19.0%と,非認知群の12.2%より高かったものの,食事内容に食事バランスガイドを生かせていない者が認知群でも82.0%であった。非認知群では,誤解しやすい食情報を肯定的に認識している者が多かった。
    【結論】他調査や施設へ来場する市民と比べ,百貨店内の対象者の認知度は低く,栄養士が外へ出向き市民を積極的に募り情報を広く発信した啓発は必要であることが示唆された。また,今回のような他業種と連携した啓発事業は栄養士の業務について市民に正しく知ってもらうためにも重要である。
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