栄養学雑誌
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71 巻, 5 号
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原著
  • ─特定保健指導を受診した男性勤労者の検討─
    赤松 利恵, 林 芙美, 奥山 恵, 松岡 幸代, 西村 節子, 武見 ゆかり
    2013 年 71 巻 5 号 p. 225-234
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】特定保健指導を受診し,減量に成功した男性勤労者を対象に,減量のために取り組んだ食行動を質的に検討した。
    【方法】対象者は,栃木県,埼玉県,和歌山県,及び大阪府にある5つの職域健康保険組合が委託した機関において,特定保健指導を受診し,4%以上減量した者に研究協力を依頼した。同意が得られた27名を対象に,インタビューガイドを用いた約30分間の個別半構造化面接を実施した。分析は6ヶ月評価時に実際に4%以上の体重減少があった26名を対象とした。逐語録を作成しグラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析を行い,本研究では,概念的枠組みの大分類【取り組み方】に分類された食生活に関する内容を食行動と行動技法の観点から,カテゴリ化した。
    【結果】逐語録から,食行動の観点では,31のサブカテゴリと7つのカテゴリ,行動技法の観点からは,17のサブカテゴリと9つのカテゴリが抽出された。減量成功者の取り組んだ食行動は多様であり,多くの対象者が行動技法を用いて,支援時に立てた目標に取り組んでいた。
    【結論】減量に成功した男性勤労者は,食行動の実践において行動技法を用いており,その内容は具体的で実行しやすく,勤労者特有のものであった。
短報
  • 太田 淳子, 藤井 彩乃, 桑原 晶子, 田中 清
    2013 年 71 巻 5 号 p. 235-241
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】日本人の食事摂取基準(2010年版)において個人の推定エネルギー必要量(EER)は,基礎代謝量×身体活動レベル(PAL)で算定する。基礎代謝量,PALともに個人差がきわめて大きい高齢者の入所施設では,適正なEERに基づき個別に栄養管理を行うべきである。今回,EER推定時に必要な項目であるPALについて検討することを目的とした。
    【方法】介護老人保健施設に連続3ヶ月以上入所中で同意を得た88名の内,体重変化率±3%以内,血清アルブミン値 3.6 g/dl以上を維持していた33名中,女性28名を対象とした。基礎代謝量として国立健康・栄養研究所の式,摂取基準の基礎代謝基準値を用い,推定PALは対象者のエネルギー摂取量を基礎代謝量で除して,求めた。
    【結果】要介護度別にみると,要介護度1~2群と要介護度3~5群の間に年齢,身長,観察開始および終了時の体重,BMIならびに血清アルブミン濃度に差はなかった。推定PALは有意ではないが,要介護度3~5群が低い傾向がみられた。国立健康・栄養研究所の式による基礎代謝量をもとにした推定PALは,入所中の要介護高齢者としては高すぎると考えられる1.8以上を示したものが10名みられた。
    【結論】EER算出に必要なPALをはじめ,今後は要介護高齢者の食事摂取量のより精密な把握法,基礎代謝量,ストレス係数についても再検討が必要である。
  • 谷内 洋子, 曽根 博仁
    2013 年 71 巻 5 号 p. 242-252
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】健常妊婦を対象に,妊娠末期に3日間の食事調査を実施し,妊娠中の栄養摂取状況を明らかにするとともに,初診時および出産時のBMIと低出生体重児(LBWI)出産との関連について前向きに検討する。
    【方法】妊娠13週までに都内産科医院を初診した,単胎妊娠かつ正常血圧で糖尿病の既往がない妊婦199名を対象に,妊娠末期(28~32週)において3日間の食事調査を実施,栄養素別摂取量を算出した。また,初診時および出産時BMIとLBWI出産との関係をロジスティック回帰分析により検討した。
    【結果】平均総摂取エネルギー量は 1,768±286 kcalで,日本人の食事摂取基準における妊娠末期推定エネルギー必要量を下回っていた。ロジスティック回帰分析の結果,初診時BMIのオッズ比は0.54:(95%CI:0.33~0.91)で,母体年齢や妊娠週数などとは独立してLBWI出産と関連を認め(p<0.05),同様に出産時BMIについても0.54:(95%CI:0.33~0.88)とLBWI出産と関連を認めた(p<0.05)。すなわち,BMIが高いほどLBWI出産リスクが低下した。
    【結論】対象妊婦において,妊娠末期のエネルギー摂取不足の現状が明らかとなった。また初診時および出産時の低いBMIとLBWI出産に関連があったことから,妊娠前・妊娠中を通して継続的な健康栄養教育の促進が急務と考えられた。
実践報告
  • 澤田 樹美, 武見 ゆかり, 村山 伸子, 佐々木 敏, 石田 裕美
    2013 年 71 巻 5 号 p. 253-263
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】従業員食堂を利用した食環境介入プログラムを従業員全体に実施し,ポピュレーションアプローチによる非肥満者の1年後の野菜類摂取増加を検証する。
    【方法】従業員食堂をもつ食品製造企業の関東地域の1工場を介入工場とし,同じく関東地域にある同企業の別工場を比較工場とした。介入工場では平成18年5月の定期健診受診者962名,及び平成19年の受診者991名に調査を実施し,比較工場も同様に平成19年の受診者815名,及び平成20年の受診者843名に調査を実施した。事前・1年後の両調査に回答が得られた非肥満者の介入工場212名と比較工場359名を解析対象者とした。食環境プログラムはトランスセオレティカルモデルを応用し,従業員全体に働きかけた。
    【結果】野菜類摂取量は,介入工場の前後では91.8から 106.8 g/1,000 kcalと有意に増加し,比較工場では108.8から 109.7 g/1,000 kcalと有意な増加は認められず,群間差として 14.2(95%CI, 5.1~23.3)g/1,000 kcalの増加が確認された(p=0.036)。
    【結論】職域における緩やかな食環境介入を実施し,野菜類摂取量が有意に増加したことから,ヘルスプロモーションの一環として従業員食堂を利用した食環境づくりは,非肥満者の野菜類摂取増加の可能性が示唆されたが,今回は2つの異なる時期に得られた結果の比較検討であることから,介入効果の解釈は慎重な見解を要する。今後は,調査時期を統一した,施設単位による野菜類摂取増加のさらなる検証が必要である。
  • 佐藤 ななえ, 林 芙美, 吉池 信男
    2013 年 71 巻 5 号 p. 264-274
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】幼児期に望ましい咀嚼習慣を身につけさせるための行動変容を狙った教育プログラムを開発し,実際の教育現場での実施可能性や満足度等を検討し,プログラムの改善方策を検討すること。
    【方法】2012年8月から9月,岩手県内幼稚園4施設に在籍する園児を対象に,咀嚼行動にかかわる教育介入を5週間にわたり実施した。教育プログラムは,幼稚園教育要領に示された内容を考慮して開発し,テーマに沿って作成した教材を用いた。介入は,幼稚園のみで実施する基本プログラムを行うK群(69名),さらに教材及び家庭での実施を追加するKH群(81名)の2群を設定して実施した。介入終了後,担任教諭及び保護者を対象とする無記名自記式質問紙調査を実施し,プロセス評価を行った。
    【結果】担任教諭の評価では,両プログラムともに幼稚園教育要領のねらいに適合し,日常教育でも概ね導入可能であるとされた。保護者の評価では,両群ともに満足度は高かった。KH群では追加した教材は活用されていたが,継続的な実施には負担があるとの回答があった。保護者から見た児の咀嚼行動変容は,KH群では,有意にK群よりも顕著であった。
    【結論】今回開発したプログラムは,教育の提供者及び受け手のそれぞれの立場から,幼稚園等において,幼児の咀嚼行動変容を促すために活用できる可能性が示唆された。しかし,日常の教育現場での実施負担や,家庭での保護者の負担について,改良の必要性があると考えられた。
資料
  • 池谷 真梨子, 柳沢 幸江
    2013 年 71 巻 5 号 p. 275-281
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】保育園児の発達段階に合った摂食機能獲得を目指した保育所における取組み(以下,取組みとする)についての資料を得ることを目的とした。
    【方法】0~2歳児と摂食に問題のある児への取組みに関する質問紙調査票を,全国の保育所から層化無作為抽出した1,500園に郵送した。管理栄養士,栄養士,または献立作成者(以下,栄養士等とする)に記入を依頼し,357園(有効回収率23.7%)より回答を得た。0~2歳児に対する取組みの調査項目を用いて主成分分析を行い,6因子を抽出した。そして9項目を選び,各回答を取組みが良好なほど高得点で点数化し,合計点を用いて,保育所を高群,中群,低群の3群に分け,その他の項目との関連を検討した。
    【結果】0~2歳児に対する取組みが良好である保育所ほど,摂食に問題のある児に関して保育士に聞く頻度や対処方法を話し合う頻度が有意に高く,適切な食形態の提供や摂食に問題のある児への対応ができている割合が有意に高かった。また,保護者に対しても取組みが良好である保育所ほど,保育所での対処方法を伝達している割合が有意に高かった。さらに,過去の取組みへの自己評価や今後の意欲についても3群間で有意差が見られた。
    【結論】0~2歳児に対する取組みが良好な保育所は摂食に問題のある児への対応もよく行われており,日頃の取組みが摂食に問題のある児への対応につながることが示唆された。
  • ─特定健康診査における標準的な質問票を用いた検討─
    鈴木 亜紀子, 吹越 悠子, 赤松 利恵
    2013 年 71 巻 5 号 p. 282-289
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】非肥満者の生活習慣病予防のために,長期的な体重増加があると回答した非肥満者の食習慣を検討する。
    【方法】2009年度,特定健康診査を実施し,自記式の標準的な質問票に回答したA健康保険組合員の被保険者または被扶養者3,342人(男性1,614人,女性1,728人)の横断的データを用いた。性別,年齢の他,標準的な質問票に含まれている食習慣(6項目),長期的な体重増加(1項目)を用いた。Body mass index(BMI)25 kg/m2 を基準に肥満群と非肥満群の2群に分け,肥満群と非肥満群のそれぞれで,体重増加の有無を従属変数とした単変量と多変量解析によるロジスティック回帰分析を行い,食習慣との関連を検討した。
    【結果】全体の肥満群は694人(20.8%),非肥満群は2,648人(79.2%)であり,20歳時からの体重増加がある者は,2,228人(66.7%),ない者は1,114人(33.3%)であった。体重増加がある者の48.9%が非肥満であった。体重増加に関連する食習慣は,非肥満群の男性では,夜食(オッズ比(OR)=2.18,95%信頼区間(95%CI)=1.37~3.46)であり,女性では遅い夕食(OR=1.69,95%CI=1.12~2.58)であった。肥満群は男女とも,遅い夕食(男性:OR=2.24,95%CI=1.24~4.08;女性:OR=3.26,95%CI=1.51~7.05)であった。
    【結論】現在,非肥満者であっても,長期的な体重増加があると回答した者は,現在の食習慣が望ましくない者であった。具体的には,非肥満者の男性では夜食,女性では遅い夕食が,長期的な体重増加に関連していた。
  • 石川 みどり, 横山 徹爾, 村山 伸子
    2013 年 71 巻 5 号 p. 290-297
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    【目的】地理的要因における食物入手可能性(自宅から店までの距離,店舗の種類)と食物摂取状況との関連について先行研究から知見をえることを目的とした。
    【方法】データベースPubMedを用い,検索式は(“food” [MeSH] OR “nutrient”)AND(“environment” [MeSH] OR “availability”)AND(“diet” [MeSH] OR “intake”)とした。検索された論文238編のうち,ヒト以外を対象としたもの,開発途上国の問題を扱ったもの,栄養生理学研究等の目的とは異なるものを除外し,残りの論文48編の全文を精読した結果,12編を採用した。
    【結果】地理的要因の距離について,7編では,徒歩で自宅から店まで行くことができる半径 800 m(0.5マイル)を基準としていた。食物摂取状況との関連がみられた店舗の種類には,スーパーマーケット(5編),ファストフード店(5編),フードアウトレット店(2編),コンビニエンスストア(2編)等があった。そのうち,スーパーマーケットは野菜・果物摂取量との正の関連,ファストフード店,コンビニエンスストアはアイスクリーム,塩味のスナック,肉類,菓子類,砂糖入り飲料摂取量との正の関連,野菜・果物,低脂肪食品摂取量との負の関連を報告していた。
    【結論】地理的要因における食物入手可能性と食物摂取状況との関連があることが示唆された。
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