定置網におけるクロマグロの漁獲量の調整方法の開発は課題の1つである。その調整方法の1つとして網から自然逃避しやすいと言われているクロマグロの行動特性を利用することが考えられる。そこで,クロマグロ小型魚の箱網外への逃避と,漁場の流速,箱網底面の深度,経過時間,尾叉長の関係を調査した。その結果,潮流による箱網底面の吹き上がりがクロマグロの自然逃避を促すことがわかった。箱網深度よりも定置網漁業での利用機会が多い潮流の情報は,クロマグロ小型魚の漁獲コントロールに役立つ可能性がある。
生食に用いられる冷凍まぐろ製品は,サプライチェーンにおいて大部分が超低温(−55°C以下)で保冷されるため,多くのエネルギーを消費する。ライフサイクルアセスメント(LCA)の適用に向けて,遠洋まぐろ延縄漁船の魚倉及び陸上冷凍施設において,保冷温度を−45°Cに上げた場合のCO2排出量の削減量を推定した。その結果,保冷温度を−45°Cに上げることで,冷凍まぐろ1 tあたり最大0.60 t [t-CO2/t]のCO2排出量の削減効果があると試算された。遠洋まぐろ延縄漁業及び水揚げ以降の関連産業において,省エネルギー化とCO2排出量削減の重要性について論考した。
トラフグが東京湾に来遊し,産卵場を形成している可能性が想定された。そこで東京湾における遊漁船による釣獲記録の解析を行い,産卵期におけるサイズ特性等を把握するとともに,産卵場を特定するためトラフグ卵の採取を試みた。その結果,成魚は3月中旬から4月中旬を中心に釣獲され,同期間の釣獲尾数は調査期間全体の約8割を占めた。また,採集された卵のDNA分析を行ったところ,18粒がトラフグの卵であると判別された。本研究によりトラフグの産卵海域として東京湾湾口部を加えることができ,太平洋側では2例目の報告となる。
アコヤガイ未利用部位の高度利用化のため,足糸加水分解物(PBH)の化粧品原料化を探った。正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF細胞)にPBHを添加したところ,しわ形成の阻害に関連するコラーゲン産生因子Endo180の遺伝子およびタンパク質の発現を有意に増加させた。また,PBHは老化誘導したNHDF細胞のEndo180発現量の低下を有意に抑えた。さらに,PBHの添加は正常細胞への断片化コラーゲンの取込量を増加させ,老化細胞の取込量減少を抑制し,化粧品原料として有望であることが示された。
宮城県で重要な養殖対象種であるマボヤの出荷最盛期はAlexandrium属プランクトンを原因とする麻痺性貝毒発生時期である。本種では麻痺性貝毒による毒化が報告されているが,この期間を通じた毒成分の器官別蓄積割合など,体内の毒成分については不明な点も多い。本研究では,麻痺性貝毒発生期間中のマボヤの麻痺性貝毒の分析を行い,毒成分が毒化期間をとおして肝膵臓に偏在していることを明らかにした。毒化したマボヤについては肝膵臓を除去することで,個体の毒量をおおむね10%程度まで低減できる可能性が示された。
本研究では,日本海・東シナ海の大臣許可大中型まき網漁業におけるマアジとサバ類を対象として試行的に導入された個別漁獲割当(IQ)管理の効果と課題を,関係者への聞き取り調査に基づいて議論する。聞き取り調査の結果,IQ管理は漁獲計画を立てやすいなど,利点が認識された一方で,盛漁期や漁港の容量不足による水揚げ制限によりIQの効果が薄いこと,複数種の漁獲枠による枠の低利用問題など,運用上の課題が挙げられた。また,漁獲枠の融通の重要性が言及され,IQ管理であっても枠の移譲を行う仕組みの必要性が示唆された。
日本水産学会誌第91巻3号(May 2025)189–199頁「京都府沖合における雄ズワイガニの脱皮休止,脱皮遅延が雄ガニ資源に与える影響」に誤りがありましたので,訂正いたします。
誤:
191頁 Fig. 2
Instar group BのCarapace width「110–29 mm」
正:
191頁 Fig. 2
Instar group BのCarapace width「110–129 mm」
なお,J-STAGE公開版(https://doi.org/10.2331/suisan.24-00014)においては,上記の修正を加えた状態の版を公開しています。