資源管理スケジュールが管理効果に与える影響について検討するために,仮想的な資源動態モデルを作成し,シミュレーションを行った。現在,資源評価は毎年行われており,前年までのデータを用いて翌年の生物学的許容漁獲量(ABC)を算定している。若齢魚が漁獲の主体となるマアジではABC算定の対象となる資源量に占める予測加入量の割合が高くなるため,資源管理の時間遅れの影響が大きいと予想されるが,資源評価の見直しを適切に行うことや加入量推定精度の向上によって資源管理の失敗によるリスクを軽減する効果が期待された。
本研究では1979-2013年の宮城県以北の太平洋側での小型いか釣り漁業データを使用し,スルメイカ冬季発生系群のCPUE標準化を目的とした。年,月,水揚港,それらの交互作用を説明変数とした一般化線形混合モデルを適用し,赤池情報量規準(AIC)およびベイズ情報量規準によって候補モデルを2つに絞った。交差検証の結果,予測精度が良かったのはAICで選択された最も複雑なモデルであった。そのモデルを用いて標準化CPUEを推定した結果,従来のCPUEによる相対資源量の過大・過小評価を修正できたと考えられた。
アサリ資源が壊滅的な舞鶴湾において,再生産の有無および減耗要因,捕食生物について検討した。湾内に垂下した採苗器からは,採苗器一つあたり5-60個の稚貝の加入が確認された。これらを沿岸部に設置したコンテナ中に放流し,夏季の生残状況を追跡すると,被食が減耗の主要因であることが示された。水槽実験では,5 mm未満の稚貝は多数の魚種に捕食され,生活史を通じてイシガニに捕食されることが明らかとなった。
イシガニは一部の海域においてアサリの強力な捕食者であり,これへの捕食対策を立てることは資源回復に有効な手段になりうる。本研究では,まず水槽実験によってイシガニのアサリ索餌メカニズムを検討した。イシガニにアサリの視覚情報または嗅覚情報を提示した実験から,イシガニは匂いを頼りにアサリを探索することが明らかとなった。水槽実験では,視覚・嗅覚情報の撹乱や遮蔽物等で被食の軽減は成立しなかった。一方,舞鶴湾奥の天然海域における実験では,被覆網および転石散布により,アサリの生残率が向上した。
ヒラメ集団におけるmtDNAのハプロタイピングは,置換速度が速い調節領域前半部の塩基配列を用いて行われることが多い。一方でホモプラシーによる過誤の懸念もある。本研究は,やや置換速度の遅いND2やND5遺伝子の配列を加え,ハプロタイピングの精度を向上させることを検討した。その結果,調節領域前半部にND2遺伝子の配列を連結してハプロタイピングを行うことで,ハプロタイプ数やハプロタイプ多様度が増加することが示された。この方法は,本種の遺伝的多様性モニタリングや放流種苗の追跡に有用であると考えられた。
クロダイ幼魚を塩分5, 10, 17, 34 PSUの飼育水で60日間飼育した。飼育塩分の違いは幼魚の成長,生残,耳石Sr:Ca比に影響を及ぼさなかった。ただし,飼育塩分が低いほど肝重量や筋肉中の脂質含量が低下する傾向がみられた。淡水馴致飼育試験では幼魚の死亡率が高く,成長が低下した。クロダイは幅広い塩分に順応可能であるが,天然クロダイにとって河口などの汽水域や淡水域は必ずしも好適環境でない可能性もある。
アコヤガイ真珠養殖の選抜形質における遺伝的多様性の影響を評価するため,1対1交配の8組の家系をつくり,成長,真珠生産およびマイクロサテライトDNA解析による遺伝的多様度を比較した。全湿重量とヘテロ接合体率の期待値(He)には強い正の相関が見られ,生残率の最も低い区はHeが他の試験区より低い傾向にあり,近交弱勢が示唆された。真珠生産で真珠採取率の低い試験区はHeが最も低い傾向であったが,品質に明確な差は示されなかった。今後のアコヤガイ真珠養殖には遺伝的多様性指標の導入も重要であることが示唆された。
近年,三重県英虞湾でKarenia mikimotoi赤潮が発生し,アコヤガイ真珠養殖への被害が懸念されている。K. mikimotoiがアコヤガイに及ぼす影響を調べるため赤潮海水による曝露試験を行った。アコヤガイ稚貝は本種の細胞密度1×104 cells/mLで36時間までに7.5%,6×104 cells/mLでは24時間までに100%がへい死した。成貝は0.5×103 cells/mLから殻体開閉の頻度が高くなり,3×103 cells/mLで頻繁な開閉運動を示した。
インピーダンス(電気抵抗)を用いて非破壊で鮮魚の脂肪量を推定する機器開発を目指した。周波数には5, 20, 50, 100 kHzを用いた。どの周波数でも死後の経過時間により電気抵抗は変動したが,100 kHzの電気抵抗と脂肪量との相関が高かった。温度変化により電気抵抗の変動を確認し,魚体サイズに応じた電極幅にすることで精度の向上が図られたため,脂肪量推定には魚体温と取上げからの経過時間を統一し,魚体サイズに応じた電極幅にすることで脂肪量を推定できると考えられた。
養殖クロマグロの脂のりを非破壊で評価するため,近赤外分光分析法による脂質測定法を開発した。近赤外透過深度の検討結果から腹部後方を測定部位とし,この部位で測定した近赤外スペクトルと脂質含量の実測値で重回帰分析を行い,脂質含量測定用の検量線を作成した。この検量線を用いて2008年から2015年にかけて,3000尾以上の養殖クロマグロの脂質含量を測定した結果,3歳魚から6歳魚の間では魚体年齢による脂質含量に大きな違いは認められず,養殖クロマグロの脂質含量に最も大きな影響を及ぼす要因は飼育水温であった。
くさみを抑制するとされる郷土料理の一つ,魚の糠味噌炊きの効果を検証することを目的とし,マアジの水煮調理の際糠あるいは糠味噌を添加して,においの改善効果を調べた。糠あるいは糠味噌を加えると調理時のトリメチルアミンの生成を抑え,保蔵時の脂質酸化で生じるアルデヒドなどのカルボニル化合物の増加を抑制した。官能検査では,魚臭さの低減が糠炊きで有意となった。しかし糠味噌炊きの風味は,糠床漬け物を食した経験のない多くのパネルには嫌われた。
近年,ヒラメParalichthys olivaceusの魚体に寄生したナナホシクドアKudoa septempunctataが生食による食中毒の原因となることが明らかにされた。これにより,現在は養殖現場でも出荷前のヒラメにおけるナナホシクドア感染検査の実施が求められている。本研究では,魚を生かしたまま行うことができ,魚体への負荷が少ない簡易的なナナホシクドア感染の検査法として筋肉生検による方法を開発した。
群馬県赤城大沼で釣獲した放射性セシウムを含むワカサギを用いた飼育実験により,放射性セシウムの減衰過程を経時的に測定して生物学的半減期(Tbio)を算出した。その結果,実験期間を通じたワカサギのTbioは350-366日と推定された。また,2012年3-4月に繁殖行動が確認されたことから繁殖期前後でTbioを算出したところ,繁殖期前で181-195日,繁殖期後で389-440日となり,明らかな差異が認められた。このことは,繁殖期前後で放射性セシウムの代謝速度が変化していることを示唆した。
ノリの色落ち原因珪藻Asteroplanus karianusのブルームピーク時期の予察法を開発するため,2008年度から2013年度の毎年12月から翌年1月までの期間,有明海奥部塩田川河口域においてA. karianusの細胞密度,溶存態無機窒素および水温の変動を調査した。また,有明海奥部における潮位データも解析に加えた。その結果,A. karianusのブルームピークは塩田川河口域の昼間満潮時の表層水温が10℃を下回った後の初めての大潮期に続く小潮期に確認される傾向が見出された。