国民調査による肝炎ウイルス検査の認識受検率は,B型肝炎ウイルス(HBV)検査17.8%,C型肝炎ウイルス(HCV)検査17.7%と低い値であった.受検したことを認識していない非認識受検者を合わせた受検率は,HBV検査57.7%,HCV検査48.1%であった.肝炎ウイルス検査受検の促進要因の検討により,肝炎ウイルス検査や症状・治療の知識を広めることが促進要因であることが明らかとなった.1都6県の自治体で実施した検査後の肝炎ウイルス陽性者(2,177人)の意識動向調査では,検査結果「陽性」を正しく認識していたのは75.4%であり,医療機関受診率は陽性者の66.2%であった.肝炎ウイルス検査の受検を促進するだけでなく,肝炎ウイルス陽性者の医療機関受診率向上を目指すことが今後の課題であり,そのためには肝炎に対する正しい知識の普及と医療機関受診及び継続受診に繋げるための体制の整備が急務であることが示唆された.
肝移植を除く肝癌治療において肝切除は最も根治性が高いが,実臨床においては診断時に根治的切除が困難な症例も多い.また分子標的薬を含む集学的治療によってdown-stagingが得られ根治的切除を施行した症例の長期経過についての報告は少ない.我々は初回診断時に切除困難で,分子標的薬,肝動脈化学塞栓療法(TACE),肝動注化学療法(HAIC)を含む集学的治療によりdown-stagingが得られた症例に対して根治的肝切除を行い長期生存が得られた4例を経験した.
Fontan術後の長期経過中に,Fontan循環に起因し肝線維化の進展と肝細胞癌の発症をきたすFontan術後肝合併症(Fontan-associated liver disease:FALD)が近年注目されている.FALD症例で肝線維化診断のため肝生検を施行した報告は少数ながらみられるが,腹腔鏡を施行し,肝の形態と組織評価の両方を行っている報告は無い.今回我々は腹腔鏡検査を施行しFALDを診断しえた3例を経験した.症例は34歳男性,33歳男性,25歳女性で,それぞれFontan術後から23年,17年,17年であった.腹腔鏡検査にて全例結節肝の所見であった.鬱血肝に対する肝生検では術後出血に注意する必要があるが,腹腔鏡では腹腔内出血の有無を詳細に観察可能であり,今回肝生検を施行した全例で出血が無く終了できた.肝組織所見は,中心静脈周囲を中心とした線維形成がみられ,鬱血による線維化進展に矛盾しない所見であった.Fontan術後症例では安全かつ確実な診断を行うためには従来の超音波ガイド下生検よりも腹腔鏡検査での施行が望ましい.FALDは術後経過により肝線維化が進展し肝発癌の高危険群になると考えられ,定期的な画像検査が必要である.
症例は51歳の女性.2001年よりB型慢性肝炎にて,当院当科を受診していた.経過観察中,2010年以降はALT 31 U/L未満,血中HBV DNAも4 Log copies/ml未満であり非活動性肝炎と診断し,抗ウイルス療法は行わず経過観察していた.2013年,肝細胞癌を指摘され腹腔鏡下肝S8亜区域切除術を行った.組織型は硬化型肝細胞癌であり,非癌部はF1であった.術後1カ月より肝細胞癌再発抑止の目的で,HBs抗原陰性化を目指してPeg-IFNα-2a投与を開始した.Peg-IFN投与4週で血中HBV DNAは未検出となり,HBs抗原は24週で陰性化,48週でHBs抗体は陽性となった.HBs抗原低値(100 IU/ml未満),HBV DNA量が低値はPeg-IFN治療によりHBs抗原陰性化を導きえる症例であると考えられる.
症例は66歳,男性.全身倦怠感,発熱,腹痛,食思不振で近医を受診し,血小板減少,肝腎機能障害を認め,当院へ緊急入院となった.腹部超音波検査,CT検査で著明な肝脾腫と脾内占拠性病変,脾出血を認めた.急速に肝不全が進行,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)も合併し,全身状態は増悪した.第3病日には腹腔内出血を来し,第5病日に死亡した.家族の同意を得て,剖検を行った.肝腫大,著明な脾腫大を認め,脾臓は被膜の破綻,出血を伴い脾破裂をきたしていた.肝臓,脾臓には腫瘍細胞がびまん性に増殖しており,免疫染色にて悪性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断した.今回,我々は脾破裂を伴い急性肝不全様の急激な経過を呈した悪性リンパ腫の一例を経験したので文献的考察を含めて報告する.
We investigated the predictive factors for the response of tolvaptan in liver cirrhosis patients with refractory ascites. Thirty-four cirrhosis patients with refractory ascites were enrolled. All patients received oral tolvaptan in addition to conventional diuretics. Twenty-three (67.6%) patients were responders (a patient with a ≥2-kg of body weight loss after 1 week administration of tolvaptan). Blood urea nitrogen (BUN) and prevalence of severe esophageal varices (SEV) were higher in non-responders than those in responders (P=0.011 and P=0.004). In multivariate analysis, BUN >20 mg/dl (P=0.040) and the presence of SEV (P=0.019) were independent predictive factors for the response of tolvaptan. The combination of these parameters may be useful for the response of tolvaptan (AUROC 0.856).