肝臓
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58 巻, 1 号
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症例報告
  • 石橋 啓如, 吹田 洋將, 武田 武文, 豊水 道史, 足立 清太郎, 片倉 芳樹, 末松 直美
    2017 年 58 巻 1 号 p. 6-13
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は膵頭十二指腸切除術歴のある糖尿病・肝内結石を合併した無症候の69歳男性.経過観察中の腹部MRI検査でT2高信号の多発肝腫瘤を指摘されたが,胸部CTと上下部消化管内視鏡検査では異常なかった.FDG-PET検査では肝内に限局する多発性腫瘤を認め,肝原発悪性腫瘍を疑った.通常の超音波検査では肝内病変の安定した描出は困難であり,経皮的針生検は困難と考えられたが,ソナゾイド造影超音波後期相での観察では肝S8に径20 mmの明瞭な造影不良域を認め,再注入で腫瘤は周囲肝より弱く造影された.造影超音波ガイド下経皮的針生検で肉芽腫を認めたことから,肝結核腫も疑い,2回目の検査で抗酸菌染色陽性桿菌が確認された.本人希望で無治療経過観察となったが,6カ月後に全身倦怠感が出現し,10カ月の抗結核薬内服療法を施行した.孤立性肝結核腫に対してソナゾイド造影超音波が施行された症例報告はまれであり報告する.

  • 福原 賢治, 横山 忠明, 佐々木 剛, 藤川 奈々子, 高舘 達之, 三浦 孝之, 山田 美樹, 泡渕 賢
    2017 年 58 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は60歳代男性.NASHにて経過観察中に,肝機能障害,汎血球減少症,脾腫,食道胃静脈瘤が悪化し当科紹介となった.脾臓摘出術(脾摘)および胃上部血行郭清術(Hassab手術)を施行し,術後経過良好にて第23病日に退院した.汎血球減少症は術直後に改善し,Child-Pughスコアは術前の8点が6カ月後には6点,2年後には5点に,食道胃静脈瘤はF3,RC+が6カ月後にF1,RC-に改善した.術後4年を経過しているが肝機能は良好に保たれており,汎血球減少症,食道胃静脈瘤の再燃なく,肝細胞癌の発生も認めていない.

  • 植原 大介, 柿崎 暁, 小林 剛, 高草木 智史, 堀口 昇男, 山崎 勇一, 佐藤 賢, 山田 正信
    2017 年 58 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    57歳・男性,C型慢性肝炎(genotype 1b).急性大動脈解離術後でワルファリンカリウム(ワルファリン)を内服していた.Y93・L31薬剤耐性変異なし.腎機能障害があるため,daclatasvir(DCV)・asunaprevir(ASV)併用療法を選択した.治療開始前のPT-INRは目標範囲内(1.8-2.2)で安定していたが,内服開始後PT-INRは経時的に短縮し,ワルファリン必要量が増加した.DCV/ASVとワルファリンの薬物相互作用は報告されていないが,最近,海外でDirect Acting Antivirals(DAA)治療中に本例に類似した報告がある.薬物相互作用の関与は完全には否定出来ないが,ウイルスが消失し,肝機能が改善し薬物代謝能が改善したことや凝固因子の産生能力改善も一因ではないかと推測した.DAA投与時は薬物相互作用だけでなく,肝機能改善による代謝能力向上も念頭に入れる必要があると考え報告する.

  • 越智 裕紀, 大野 彰久, 丹下 和洋, 青野 通子, 武智 俊治, 眞柴 寿枝, 横田 智行, 上甲 康二
    2017 年 58 巻 1 号 p. 28-37
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    症例1は60歳代男性.2014年2月に門脈腫瘍栓(Vp3)を伴う最大70 mm大の多発肝細胞癌(HCC)に対してDrug-eluting beads transcatheter arterial chemoembolization(以下DEB-TACE)を施行し,術後に腫瘍栓に対して放射線治療を施行した.その後再発に対して2回のDEB-TACEを行い,最終治療から6カ月間CRが継続している.症例2は80歳代男性,2012年に多発肝細胞癌を指摘され,他院でTACEを合計3回施行したが,門脈腫瘍栓(Vp3)を伴う再発あり当院に紹介された.門脈腫瘍栓部位に放射線療法とシスプラチンを用いたTACEを施行したが再発あり,エピルビシンを用いたDEB-TACEを追加施行した.DEB-TACE後に16カ月間CRが継続している.DEB-TACEが門脈腫瘍栓(Vp3)を伴う肝細胞癌に対する有効な治療法である可能性を示唆する2症例を経験したので報告する.

  • 清野 宗一郎, 丸山 紀史, 小林 和史, 近藤 孝行, 嶋田 太郎, 高橋 正憲, 奥川 英博, 神田 達郎, 横須賀 收
    2017 年 58 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,女性.55歳の頃からシェーグレン症候群で近医に通院していた.57歳時に,スクリーニングのCTで脾臓付近の異常血管を指摘され精査目的にて当院を受診した.超音波上,慢性肝疾患の所見に乏しかったが遠肝性血流の脾腎短絡路を認めた.門脈や脾静脈は順流で腹水や脾腫を認めず,肝酵素値は正常範囲で抗ミトコンドリア抗体およびM2抗体も陰性であったことから原因不明の血行異常症として経過観察することとなった.その7年後から脾静脈血流に逆流成分が見られ,血清アンモニアも異常値を呈するようになった.顕性脳症を認めなかったが精査を要すると判断し肝静脈圧測定と肝生検を行った.肝静脈圧較差は4.8 mmHgと正常であったが,肝組織所見から原発性胆汁性胆管炎(PBC,Scheuer 2,中沼分類Stage 3)と診断された.本例は病初期から脾腎短絡路を合併し,無症候性から症候性PBCへの移行を認めた稀な一例である.

  • 山下 由美子, 髙木 慎太郎, 本田 洋士, 森 奈美, 井上 基樹, 辻 恵二, 藤原 恵, 茶山 一彰
    2017 年 58 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は,71歳男性.C型慢性肝炎のウイルス学的著効(SVR)後10年後の経過観察中,肝癌のスクリーニング目的に施行したMRIにて肝S8に8 mm大の多血性結節を認めた.血液検査では好酸球,IgEが上昇しており,肝腫瘍生検にて好酸球浸潤を認め,血清イヌ回虫抗体価が高値でありトキソカラ症と診断した.その後結節は一度消失したが,当初と異なる部位に新規病変を認め,再燃と考えアルベンタゾールにて加療した.画像診断にて病変は消失し,好酸球,IgE,血清抗体価の低下を認め16カ月後現在再燃は認めず,治癒したものと考えられた.肝トキソカラ症は,画像診断のみでは肝癌との鑑別が困難である.消退する経過や問診,血液検査所見から鑑別に挙げるべき疾患と考えられた.

  • 岡野 宏, 大矢 由美, 白木 克哉, 高瀬 幸次郎, 中野 達徳, 高橋 雅春, 岡本 宏明
    2017 年 58 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/31
    ジャーナル フリー

    三重県北部地域在住の67歳の男性が急性肝炎を発症した.IgA-HEV抗体及びHEV RNAが検出され急性E型肝炎と診断された.HEVのsubgenotypeはわが国では稀な3f型と判定された.海外渡航歴はなく国内での感染と考えられた.発症前3カ月以内の県外への移動はなかった.狩猟を生業としており,捕獲した猪や鹿の解体も自ら行っていた.保管されていた猪肉から同定されたHEVは3b型に分類されたが,捕獲した動物を素手で解体していたことから,動物からの感染が強く疑われた.3f株による国内感染E型肝炎例は稀で,群馬県,埼玉県及び岐阜県の症例に継いで本例は4例目である.今後広く全国で3f株によるE型肝炎が発生する可能性があり,本来ヨーロッパ株である3f株が土着化しているのか,豚や猪での感染調査を含め,その感染源,感染ルートの解明が急がれる.3f株例では急性肝不全を生じた例も報告されている.E型肝炎では,積極的に遺伝子解析を行い病態との関連性を検討する必要がある.

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