今回われわれは主病巣の完全自然壊死後に肝内転移巣のみ残存した非常に稀な肝細胞癌症例を経験した.症例は59歳,男性.アルコール性肝障害および十二指腸潰瘍で近隣病院にてフォローを受けていたが,CT検査で肝S8に1.5 cmの結節影が出現し当院に紹介となった.肝EOB-MRI検査およびダイナミックCT検査で動脈相で濃染,門脈相でwash outされる1.5 cmの結節像をS8に認めた.肝細胞癌と診断し肝S8亜区域切除術を施行した.病理組織学的所見では,結節は周囲との境界は比較的明瞭で肝細胞癌を疑う腫瘍性病変と考えられたが,肝細胞が脱落して炎症性肉芽組織に置換されておりviableな腫瘍細胞はみられなかった.その近傍に約0.2 cmの中分化型肝細胞癌の増殖が認められた.1.5 cmの結節は肝細胞癌が自然壊死に至った主病巣であり0.2 cmの肝内転移巣のみが残存したものと考えられた.
症例は46歳の男性.1カ月前より全身倦怠感および黄疸が出現したため近医を受診した.血液検査にて末梢血の芽球出現を伴う汎血球減少と黄疸を認めたため,精査・加療目的で当院を紹介受診した.骨髄検査では芽球様細胞(90.2%)を認め,遺伝子検査にてPML-RARA融合遺伝子が検出されたことから,急性前骨髄球性白血病(APL)と診断された.また腹部ダイナミックCTでは,胆管浸潤を伴った多発性肝細胞癌(HCC)が認められた.一過性の胆道出血を認めたものの胆管炎の合併はなかったため,APLに対する治療を優先し,全トランス型レチノイン酸(ATRA)による寛解導入療法を開始した.入院後1カ月の時点でAPLの血液学的完全寛解を確認したため,HCCに対して肝動脈化学塞栓術(TACE)を施行した.その後亜ヒ酸を用いた地固め療法およびATRAによる維持療法を行い,APLは寛解が維持された.一方で,TACEによるHCCの制御は困難であり,経過中に多発性肺転移を認めた.ソラフェニブによる全身化学療法を開始したが,投与開始後1カ月の時点でHCC破裂を来たし,当院受診後11カ月で死亡した.
症例は68歳,男性.発症1年前に腹腔鏡下肝生検にて原発性胆汁性胆管炎(PBC)と診断,以後ウルソデオキシコール酸(UDCA)600 mg,ベザフィブラート200 mg内服により経過観察していた.経過中,発熱と全身倦怠感が出現.黄疸と肝酵素上昇も認めたため,PBCの進展が疑われ当科紹介入院した.海外渡航歴,明らかな生肉の摂取歴は無かった.入院時の血液検査にて肝障害と異型リンパ球を認め,ウイルス性肝炎の合併を考え,補液,肝庇護剤にて経過観察としたところ,黄疸はやや遷延したものの改善を認めた.退院後IgA-HEV抗体陽性であることが判明し,PBCにE型急性肝炎の合併したものと考えられた.HEV genotypeは3(3b)型であった.慢性肝疾患の経過中に肝機能障害を認めた場合,慢性肝疾患の増悪だけではなく,ウイルス性肝炎等の他の肝疾患の合併も考慮する必要があると考えられた.
症例は54歳女性.特記すべき家族歴なし,高血圧の既往歴あり.当院受診2日前からの39度台の発熱,1日前からの嘔吐・下痢あり.強い心窩部痛を主訴に当院受診.身体所見は心窩部の圧痛,血液検査で炎症反応の上昇がみられた.外来にて急に意識消失,腹部造影CTで大量の腹腔内出血と左肝動脈にふたこぶ状に連なった動脈瘤が認められた.肝動脈瘤破裂による出血性ショックと診断し,緊急でカテーテルコイルによる動脈塞栓術を施行した.術後経過は良好.止血後に撮像した頭部MRI/MRAで右内頸動脈と左右の中大脳動脈の計3カ所に動脈瘤がみられた.局所的な誘因のない内臓動脈瘤の症例においては頭蓋内の動脈瘤を検索すべきと考えられた.
症例は82歳男性,盲腸癌術後の,定期血液検査にて肝障害を認めた.薬剤性肝障害を疑い,服薬中止.その後も肝障害の改善を認めなかった事で薬剤性肝障害は否定的であり,精査目的にて当科紹介受診となる.血液生化学検査上,肝,胆道系酵素の異常が認められた.肝炎ウイルスの検索ではHA抗体-IgM,HBs抗原,HBc抗体,HCV抗体等は陰性であったが,HCV-RNAは5.4 LIU/mLと陽性を示し,後日,HCV抗体も陽性化した事で,急性C型肝炎と診断した.診断後,肝炎鎮静化を期待したが,遷延化した.高齢であり,インターフェロン治療困難なため,経口の抗HCV薬であるasunaprevir,daclatasvirによる併用療法を行い,著効が得られた.急性C型肝炎が遷延化し,インターフェロン不耐症例に対してasunaprevir,daclatasvirによる併用療法の有用性を示唆する貴重な症例と考えられる.