患者教育が慢性肝疾患のかゆみについての患者認知に貢献するか,メディカルスタッフが介入できるスキンケアなどの生活指導がかゆみをどこまで軽減できるか,さらにこれらの介入で解決できないかゆみを持つ患者がどの程度存在するのかを明らかにすることを目的とした前向き介入検討を行った.合計238名の患者に記名式のアンケートを行い,かゆみの有無,かゆみがある場合はその強度をvisual analogue scaleで表記させた.アンケート事前での慢性肝疾患のかゆみについての簡単な説明は,医療従事者への相談についての心理的な抵抗を減らす可能性が示唆された.かゆみを訴える患者に対するスキンケアの指導により,指導を受けない患者に比べると有意にかゆみ強度は改善し,教育効果が示されたが,一方,改善せず薬物投与を考慮すべき患者の抽出に有効だった.慢性肝疾患についての知識を持ったメディカルスタッフによる介入は患者QOLの向上に大きな役割を果たすと考えられた.
進行性大腸癌に対する抗癌剤のオキサリプラチン(OX)は肝類洞障害を生じ,時に門脈圧亢進症を伴う.本研究ではOXを使用した大腸癌患者86症例に対しOX使用前後の造影CT所見と採血データの後方的な比較を行った.使用前と比較し使用後のCTでは31症例に脾腫,20症例に側副血行路を認め,そのうち1例で静脈瘤に対し加療を要した.症例群を画像所見によって分類し肝類洞障害の指標であるaspartate aminotransferase to platelet ratio indexを治療前後で比較すると,脾腫と側副血行路が共に出現した群のみで有意な上昇を認め,強い肝障害が示唆された.造影CTは治療効果判定に加え肝障害を類推し,conversion therapyとしての肝転移巣切除の適応判断の一助となり得る可能性がある.
福井県内のウイルス肝炎患者診療状況を把握するために,県全医療機関を対象にアンケート調査を実施した.回答のあった270施設のC型肝炎ウイルス検査の年間件数は99,207件,HCV抗体陽性数は2525件(2.6%)であったが,肝臓専門医への紹介率は35.0%と低いことが判明した.病院区分別では,肝臓専門医在籍総合病院では44.0%,肝臓専門医不在一般病院では2.4%,一般開業医は32.0%であった.総合病院での肝臓専門医への紹介システムが確立されておらず,一般開業医の紹介の認知度が低いことも判明した.対策として,総合病院と一般開業医向けに分けて,肝炎ウイルス陽性者拾い上げセミナーを開催した.セミナー後,総合病院では,拾い上げシステムがほぼ確立され,一般開業医では,各地区医師会の新たなアンケート調査の実施などによる医師への情報発信が徹底的に行われている.ウイルス肝炎撲滅のためには,肝臓専門医療機関,行政,医師会の三位一体の取り組みが重要である.
症例は49歳男性.初診より2週間前からの倦怠感を自覚し,前医受診時に著明な黄疸,肝機能障害を指摘されるも入院治療を拒否し,外来にて経過観察となっていた.1週間後再診の際に急性肝不全の診断となり,当院紹介,入院加療を開始した.アルコール多飲歴があること,著明な黄疸,白血球増多,肝臓腫大の所見より重症アルコール性肝炎と診断し,ステロイド治療を開始したが,徐々に状態が悪化し,第30病日に死亡した.初診時のHEV-IgA抗体陽性であり,後日の精査によりHEV genotype 4(New Sapporo strain)の急性感染が判明した.本症例は重症アルコール性肝炎の臨床像に類似していたが,慢性肝障害を背景にHEVの急性感染が急性肝不全の原因に関与していると考えられた.