2022年に欧米で原因不明の小児急性肝炎が急増した.当初は流行中のアデノウイルス(AdV)陽性例が多いと注目されたが,メタゲノム解析により英米の流行期肝炎患者の80%以上で大量のアデノ随伴ウイルス2型(AAV2)が検出された.ヘルパーウイルスとなるAdVやHHV6の同時感染が多いこと,特定のHLA型が多いことも報告され,遺伝素因にAAV2感染が重なり発症する可能性がある.AAV9ベクターを用いる遺伝子治療により免疫介在性の急性肝障害を発症した例が多く,類似の病態と考えられる.また原因不明肝炎の一部にはSARS-CoV-2関連症例も含まれる.日本では1年弱で本症が162例届け出されたが,パンデミック以前と比べると減少傾向である.AAV2検出例も10%程度と少ないことから,欧米の流行とは異なる.従来から小児急性肝不全の約40%が原因不明であり,その一部にAAV2が関与していることが推測される.
臨床研究においてデータの信頼性は重要であるが,データの品質管理体制が整っている観察研究は少ない.本研究ではC型肝炎ウイルス排除治療を行ったC型肝硬変症例を対象とした多施設共同観察研究の品質向上を目的として,研究事務局に品質管理担当者を配置し,クエリ内容や傾向を検討した.対象となる研究には2019年から2021年までに369症例が登録され,REDCapシステムによりデータ管理を行い,定期的に入力促進及びデータチェックを実施した.2020年から2021年までに発生した847クエリを「未入力」と「データ関連」に分類したところ,「未入力」が617クエリ,「データ関連」が230クエリであり,全クエリが解決された.半年毎のクエリ内容の推移は,「未入力」は減少傾向であったが,「データ関連」は残存した.品質管理担当者を配置することで,データの品質が向上し,観察研究の質の向上につながる可能性が示唆された.
2019年末に中国武漢で報告され,流行した新型コロナウイルス(以下COVID-19)感染症により,移植医療はレシピエントのCOVID-19感染,移植のための人の往来による感染伝播,移植後患者のCOVID-19感染のリスクなど様々な問題に直面した.実際に,それらの問題のため,COVID-19流行前の2019年と流行後の2020年以降2022年末までの臓器提供数,脳死肝移植症例数を比較すると,減少している.
今回COVID-19感染下に発症した急性肝不全患者に対して,診断早期から多職種間,施設間で連携をとり,適切なタイミングで脳死肝移植を施行した一例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例は50代女性.B型肝硬変,肝細胞癌に対して肝切除術後.術後15カ月頃より貧血(術前Hb10.9 g/dl→5.8 g/dl)および白血球数減少(術前7550 /μl→1160 /μl)の急激な増悪を認め,末梢神経障害も呈するようになった.全身薬物療法の施行歴はなく各種スクリーニング検査や骨髄検査を行うも原因不明であった.経過で血清銅低値,血清亜鉛高値が判明,他科にて亜鉛製剤が術後より長期処方されており亜鉛製剤による銅欠乏症と判断した.薬剤中止に加え純ココアによる銅補充を行い,術前と同程度への血球回復と末梢神経障害の改善を認めた.肝硬変患者における亜鉛補充療法は一般的となりつつあるが,亜鉛製剤は多量継続摂取により銅欠乏症の誘因になり得る.銅欠乏により生じる血球減少は鑑別が困難なことが多く,神経障害は非可逆性となる可能性がある.亜鉛製剤投与中の血清銅測定の必要性を周知する必要がある.
症例は60代男性.切除不能肝細胞癌(T2N0M1 Stage IVB)に対しアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法を開始し,2コース施行後のCTにて肝内病変の縮小を認めた.治療開始5カ月後に鼻出血が出現し,圧迫止血困難のため耳鼻科にて焼灼術を2回施行した.ベバシズマブによる副作用と判断し,ベバシズマブを休薬とし,アテゾリズマブ単独投与を2コース施行したが,CTにて肝内病変の増大を認めた.ベバシズマブ減量投与(7.5 mg/kg)にて併用療法を再開し,2コース施行後のCTにて肝内病変の縮小を認めた.鼻出血の再燃なく経過し,7コース施行後のCTにて肝内病変はさらに縮小し,肺転移の1カ所は不明瞭化した.
atezolizumab+bevacizumab併用療法(atezo+beva)はIMbrave150試験の結果に基づき,本邦でも肝細胞癌の一次治療薬となった.atezo+bevaは,実臨床においてもその有用性が示されている一方で,免疫関連有害事象(irAE)の報告も増加している.今回,我々は切除不能肝細胞癌に対しatezo+beva後に下垂体性副腎皮質機能低下症を生じた3例を経験したため報告する.3症例ともに,主訴は倦怠感であり,低血圧と著明な低Na血症を認めていた.血清ACTH値の増加は認めなかったが,血清コルチゾール値の低下を認め,下垂体性副腎皮質機能低下症の診断に至った.ヒドロコルチゾンの投与により全例で速やかに症状の改善を認めた.免疫チェックポイント阻害剤投与時には様々なirAEが出現し得るが,副腎皮質機能低下症による低Na血症および低血圧症も念頭に入れ,診療に携わる必要がある.