ラジオ波治療(RFA)を行う肝癌(HCC)の予後予測においてALBI-gradeが肝予備能評価に有用かChild-Pugh(CP)分類と比較する目的で,TNM分類とそれぞれCP分類とALBI-gradeを組み合わせたJISスコアとJIS変法(ALBI-Tスコア)を用いて比較検討した.対象はRFAを施行した初発HCC1720例(中央値70歳,男:女=1182:538).中央生存期間はALBI-Tと対応するJISスコアよりも良好で(0/1/2/3/4/5=141.2/75.8/54.8/39.1/18.8/-vs.109.5/66.9/50.2/36.2/16.1/-月),AICはALBI-TがJISスコアより良好であった(2001.6 vs. 2018.5).ALBI-gradeはCP分類よりもRFA症例の予後予測における肝予備能評価に有効である可能性が示唆された.
症例は55歳女性.上腹部不快感を伴う肝障害精査目的に受診し,CT検査にて,肝臓には明らかな腫瘤形成は認めなかったが,肝腫大とびまん性の不均一な濃度低下を認めた.血清CEA高値のため行った悪性腫瘍に対する全身検索にて,右の乳腺に2.5 cmの乳がんと腋窩リンパ節転移を認め,びまん浸潤型の肝転移を伴う乳がんと診断した.急速な肝予備能低下により腹水や脳症が出現し,急性肝不全亜急性型の経過を辿り永眠された.剖検にて,乳がんの肝転移による肝不全状態であったことを確認した.
症例は72歳女性.C型慢性肝炎(Genotype 1b)に対して,過去にインターフェロン療法を受けたが無効であった.2014年9月(71歳時)に,発熱,下腿浮腫,紫斑を呈し,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)関連クリオグロブリン血管炎と診断された.ダクラタスビル(daclatasvir;DCV),アスナプレビル(asunaprevir;ASV)による抗ウイルス療法を導入したところHCV量の低下とともに血管炎は著明に改善した.患者はウイルス学的著効となり血管炎の再燃はない.近年,多くのdirect acting antiviral agentsが開発されているが,クリオグロブリン血管炎を合併したC型慢性肝炎例に対してDCV/ASVによる治療を行った報告はなく,今後のHCV関連クリオグロブリン血管炎の治療選択肢の一つになると考えるため報告する.
症例は35歳の女性.妊娠高血圧症候群の治療中に肝酵素とLDHの上昇,血小板減少を認めHELLP症候群と診断され,妊娠28週1日に緊急帝王切開を行った.分娩後も肝酵素上昇が持続,増悪するため術翌日に当科紹介受診となった.造影CTで肝右葉S6~S8の造影効果がほぼ消失し,門脈P6~P8の途絶を認め門脈血栓症による広汎な肝右葉梗塞と診断した.術後4~6日目に3日間連続して血漿交換を施行した.両側肺水腫,無気肺による急性呼吸不全に対して人工呼吸管理,急性腎不全の悪化に対して持続的血液濾過透析を行った.DICも合併し重症化したが,全身管理を継続し,時間経過と共に肝梗塞巣の縮小を認め,他臓器合併症も改善を認めた.HELLP症候群で妊娠終結後も肝酵素の増悪が持続する場合には肝梗塞などの重篤な肝臓合併症の可能性も念頭に置き精査を行う必要性を強く認識させられた啓発的な経過であった.
症例は54歳,男性.B型慢性肝炎に対して治療中であった.肝細胞癌(以下,HCC)に対して前医でラジオ波焼灼術(以下,RFA)が施行された.6カ月後に腫瘍マーカーの上昇を認め,CTで肝内には新規病変は認めないものの,膵頭後部及び大動脈周囲に腫大したリンパ節を認め当院紹介となった.その他の部位に転移が無い事を確認しリンパ節摘出術を施行した.2カ所のリンパ節はHCCのリンパ節転移と組織診断された.術後経過は良好で,現在術後2年無再発生存中である.近年,HCCに対する局所療法としてRFAが普及している一方で,特徴的な肝外再発例も報告されている.HCCのリンパ節転移に対する外科切除の適応と意義に関してはまだ確立していないが,完全切除が可能であるならば,大動脈周囲リンパ節転移でも切除により良好な経過を得られる可能性がある.今回我々は切除を選択して良好な経過を得ている症例を経験したので,その治療適応に関する文献的考察を加えて報告する.