誘電体薄膜は絶縁性だけでなく,誘電率の制御,電気分極を電界で制御できる強誘電性,圧力印加により電荷を発生する圧電性,強磁性を併せもつマルチフェロイック性など多種の物性そしてこれらを利用した多くの用途をもっている.これらの誘電体膜をその特性,用途に分けて研究情況を概観するとともに,最近の進展について紹介する.
層状チタン酸化物を単層はく離して得られる酸化チタンナノシートを溶液プロセスによりレイヤーバイレイヤー累積し,高品位多層ナノ薄膜を形成した.得られた薄膜は厚さ10 nm前後の極薄領域でも120を超える比誘電率を示すとともに,リーク電流も10-7 A/cm2 以下ときわめて高い絶縁性を発揮し,ナノレベルの厚みで機能する新規誘電体薄膜として期待される.
基板上に形成されたナノ強誘電体は,強誘電体物性だけでなく応用の観点からも興味深い研究対象である.本稿では,ナノ強誘電体の各種作製法と一般的な物性について述べるとともに,ボトムアップ法で作製されたナノサイズ島構造の結晶構造や圧電・強誘電性について述べる.また,強誘電体ナノロッドやナノチューブなどの一次元構造強誘電体の特異な性質に関しても触れ,今後のナノ強誘電体の展望を述べる.
ダイヤモンドが優れた電気化学的性質を有していることを利用した電気化学的DNAセンサーに関する研究を行っている.ここでは,新しく開発した微細加工技術を用いて製造したダイヤモンドナノワイヤ電極表面によるDNA検出について紹介する.ナノワイヤ構造を用いて電気化学的な表面修飾を行うことにより,表面のプローブDNA分子密度を制御し,ナノメートルオーダーの間隔で配置することに成功した.このようなDNAセンサー上で従来のものより2〜3けたの高感度化に成功し,最高検出感度2 pMを達成した.また30回以上にわたるハイブリダイゼーションサイクルでもシグナルは劣化せず,ダイヤモンドDNAセンサーの高安定性を実証した.
量子暗号は盗聴者の能力制限の仮定がない,無条件に安全な通信ネットワークを実現する技術として期待されている.本稿では,NTTにおける取り組みを中心に,近年進展著しい光ファイバー上での量子暗号実験について述べる.まず,実用化に最も近い減衰コヒーレント光を用いたPoint-to-point量子暗号の代表例として,差動位相シフト量子鍵配送プロトコルに基づく高速,長距離量子暗号実験について概説する.次に,通信波長帯量子もつれ光子対を用いた次世代量子暗号システム実現に向けた取り組みを紹介し,最後に今後の展望について述べる.
フェムト秒レーザーを励起光源とする時間分解2光子光電子放出と光電子顕微鏡法とを組み合わせた時間分解光電子顕微鏡法により,銀薄膜表面を伝搬する表面プラズモンポラリトン(SPP)を動画像化する.SPP の動きは,SPP 波束と局所分極場の干渉により形成される分極ビートの空間的な変位として記録される.SPP の伝搬,分散,減衰などのダイナミクスは,銀の誘電関数から求められる SPP 複素波数ベクトルで理解できる.
超臨界流体とは,物質固有の臨界点以上の温度・圧力状態にある物質状態であり,巨視的には液相と気相の中間状態を示し,高密度,高拡散性,高溶解度を有することから,抽出,廃棄物処理,ナノ物質・構造作製など,多岐にわたる分野において,その応用研究・実用化が進められてきた.近年,この超臨界流体中で発生させたプラズマの研究が注目されている.
本解説では,超臨界流体中でのプラズマ(超臨界流体プラズマ)の発生,および,そのプロセス応用について,カーボンナノ物質合成を例にあげ解説する.
近年日本の子どもたちの理科離れ,物理嫌いの一因は,ブラックボックス化した中身不明な多くの工業製品に囲まれて,しかもそれらに支配されて生活していることによるのではなかろうか.少子高齢化に加え,世界経済危機の追い討ちの中で,理科教育はどこに行くのだろうか.本学では,毎週土曜日に物理体感工房と称した科学ものづくり講座を開講して,学生と面白そうな科学作品を制作している.その作品の出来ばえは,メーカーへの注文品には劣るが,構造と性能は単純でわかりやすく,再利用品を用いて毎月のお小遣い程度の費用で作り上げている.ここでは,著者たちが最近学生とともに作り上げた空気エレベーター,ポン菓子器,電子レンジプラズマ装置,回転プラズマ装置の概要を紹介する.
真空には,低真空から極高真空まで15けたにわたる広い領域が存在する.望みの真空を作るには,真空容器からのガス放出に留意しながら,目的に応じた真空ポンプを利用する.作った真空の圧力を測定するには,圧力領域に適した真空計を用いる.典型的な真空ポンプと真空計の原理を考えながら,真空の作り方と測り方について解説する.