単層遷移金属ダイカルコゲナイドをはじめとするグラフェン類縁物質である2次元物質は,極限的な低次元系に由来する特異な電子物性や機能性を有しており,基礎物理,応用物理の研究舞台として注目を集めている.特に,2次元半導体をねじれて積層した人工ヘテロ構造において出現するモアレ構造は,積層角度による電子物性の変化に由来する光学応答を有し,量子情報や量子光学などへの応用が期待されている.そこで本稿では,研究の進展が目覚ましい単層遷移金属ダイカルコゲナイドから成るモアレ構造中の励起子を対象とし,0次元系やバレースピン量子自由度に由来する光学応答や光機能について,我々の研究を中心に紹介する.
巨大な顕微鏡と称される放射光施設では,放たれるX線の特性からラボ用分析装置では得られない極めて高い分解能の観察ができるため,さまざまな分野の最先端研究が行われている.この高分解能を得るには高精度光学素子の存在が不可欠であり,2nm以下という卓越した精度で表面を平滑化したX線全反射ミラーを安定供給しているのは筆者らの組織だけである.本稿では,このグローバルニッチトップ型ビジネスを支える独自のナノ加工技術の存在と,その実用化・事業化の成功について述べ,新たに進める技術の応用開発の一例を紹介する.
低次元材料は次世代デバイスの新規材料として期待されているが,その大量合成,大型デバイスへの応用が大きな課題の1つとなっている.本稿ではCaSi2などの層状結晶をテンプレートとしたシリコン,シリサイドおよび関連物質のナノシート束の作製について紹介する.厚さ数~数十nm程度のナノシートが束状となったナノシート束から成る粉末,およびSi基板上にマイクロウオール形状に作製したシリサイド束を得た.固相気相反応によるナノシート束作製から,水溶液,金属融液,溶融塩中でのナノシート束作製への進展について紹介する.
太陽光発電の新規市場として電気自動車などの移動体応用が検討されている.当該応用では限られた設置面積で大きな発電量を得ることが必要であり,III-V族半導体を主体とする高効率な多接合太陽電池の利用が期待されている.しかしながら,高い製造コストがその普及を妨げており,現在の応用先は限定的で市場規模も小さい.本稿では,当該太陽電池のコスト低減を図る方法として,低コスト結晶成長技術と半導体の剝離・接合技術を紹介する.
宇宙にはダストと呼ばれる無数のナノ粒子が存在しており,さまざまな場面で重要な役割を果たしているため,ダストの形成過程の理解は天文学,惑星科学の土台となる課題である.我々は気相からの核生成過程の一般性と,宇宙における物質進化を理解する鍵はナノ領域特有の性質にあると考え実験を基に研究を行ってきた.その結果,気相からの均質核生成のキーファクターはダイマーの形成と融点降下にあることが分かり,ダストの形成過程の理解にはナノ粒子の融合成長を考慮する必要があることが分かってきた.ここでは,最近の研究の一端を紹介する.
筆者らが提案する超高効率太陽電池,2段階フォトンアップコンバージョン太陽電池(TPU-SC)について,その基本コンセプト,理論変換効率,および実験結果について示す.実験結果では,半導体ヘテロ界面に量子ドットを内包することで,バンド内遷移による効率的なアップコンバージョンが発現することを示す.最後に,低コスト,高効率なTPU-SCの実現を目指した現在の取り組みについて紹介する.
パルス磁場の発生手法についてその基礎から解説し,強磁場研究の実情を紹介したい.まずは従来のパルス磁場技術を示し,これと使いやすい磁場の代表格であるロングパルス磁場との差異を示す.更に,最先端のフィードバック技術で発生されたフラットトップ磁場を解説し,その有用性を議論する.最後にこれらの磁場発生手法で可能となった最近の研究動向を紹介する.