半導体中の固有点欠陥はデバイスの性能と劣化に影響するため,その形成と移動について実験と理論の両面から多くの研究が進められてきた.しかしながら,それらの報告値は現状,混乱の極みにある.ここでは,半導体中の点欠陥の原子構造と電荷状態の基礎的な説明のあと,シリコンでの形成エネルギーに関する実験結果,理論的予測,それらに対する外部静水圧や不純物の影響,複合体化,さらにエントロピーに関する現状を紹介する.その後,ゲルマニウムとワイドギャップ半導体における研究を簡単に述べる.
細胞は弾性と粘性の性質を併せもつ粘弾性体である.細胞の粘弾性(レオロジー)は,さまざまな細胞機能と密接に関係しており,細胞疾患診断のマーカとしても期待されている.本稿では,原子間力顕微鏡(AFM)を用いた細胞レオロジーの定量計測法を紹介する.そして,1細胞力学診断法の基礎となる細胞レオロジーの個性(集団分布)とエルゴード性について述べる.
生体内には,微小線維と呼ばれる螺旋状のタンパク質集合体が存在し,さまざまな機能を担っている.同様の精緻な線維状集合体の人工系における構築は挑戦的な課題であり,機能性分子をモノマーとして用いることで,人工系ならではの機能の発現が期待される.我々は今回,光照射によって螺旋構造がほどける人工線維の開発に成功した.この新しい線維は,光異性化分子であるアゾベンゼンを導入した水素結合性分子を非共有結合によって重合(超分子重合)することで得られる.この分子は,ロゼットと呼ばれる6量体ユニットを経由して重合するが,ロゼットが重合する際に均一な曲率が生じ,アゾベンゼンの光異性化によってこの曲率が失われることがわかった.
近年,伸縮可能な電子デバイスの研究が盛んに行われており,重要な要素の1つとして高伸縮性と高導電性を有する電気配線が求められている.これまでの研究は材料や形状を工夫するアプローチが多いが,我々は導電性のよい金属の電気配線を用いてそこに自己修復という機能を付与するというアプローチで研究を行っている.具体的には,配線の断線により断線部にのみ生じた電界が金属ナノ粒子に及ぼす誘電泳動力により,断線部を金属ナノ粒子によって架橋し,断線を修復するという手法である.本稿では,自己修復型金属配線の原理から,自己修復型金属配線を用いた伸縮デバイス応用まで紹介する.
リチウムイオン電池は,充放電可能なエネルギー供給源として日常生活に欠かせない2次電池である.電極材料は,電池の容量を決定する重要な材料であり,高容量化や充放電高速化などを標的として,今なお新材料の開発研究が世界中で行われている.我々は,大環状芳香族分子が固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池の負極材料に適用できることを見いだし,その電気容量が黒鉛電極の2倍に及ぶ材料となることを見いだした.この新しい分子材料は,ちょうど孔(あな)のあいたグラフェンのような分子構造をもっており,その集積により理想的なナノ細孔を形成することが高い電極性能の鍵であった.
正孔と電子が有機分子上で束縛されることで形成される「励起子」の生成・遷移・拡散・輸送過程は,有機薄膜太陽電池や有機エレクトロルミネセンス(有機EL)素子などの有機半導体デバイスの動作原理の中核をなす物理現象であり,その理解は有機半導体素子特性の向上のみならず,新しい有機半導体デバイス概念の創出にもつながるものと期待できる.近年,2種類の異なる有機分子間で形成されるエキシプレックス型励起子において,分子間の実空間距離を制御することにより,その励起子エネルギーや励起子寿命などの励起子物性が制御可能であることがわかった.