応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
80 巻, 7 号
『応用物理』 第80巻 第7号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
企画の意図
総合報告
  • 小柳 義夫
    2011 年 80 巻 7 号 p. 557-567
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    計算科学とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の歩みを振り返る.計算科学はコンピュータ・シミュレーションを主要な手法とする研究分野であり,複雑な系のミクロな法則からマクロな現象をHPCによって予言することができる.コンピュータの性能は60年余りの間に数兆倍の向上を実現した.この向上を可能にしたコンピュータ技術について解説する.シミュレーションを,数値計算法,系の構成要素,時間依存性,基礎となる物理法則などの観点から類型化し,俯〔ふ〕瞰〔かん〕的な描像を与える.計算科学を支えるペタフロップス(PFLOPS)のコンピュータが実現した今,各分野の計算科学者がHPCの研究者と密接に連携することが重要である.

解説
  • 寺倉 清之
    2011 年 80 巻 7 号 p. 568-573
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    計算機の急激な進歩と基礎理論や手法などの発展が相まって,計算科学は目覚ましい進展を遂げてきた.次世代スパコンプロジェクトがこの進展を後押ししている.第一原理計算に焦点を絞り,いくつかの障壁がどのように解決されてきたかを概観した.計算物質科学は,基礎研究のみならず,社会に大きく貢献することが期待できる段階に来ている.

  • 庄司 文由
    2011 年 80 巻 7 号 p. 574-578
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    (独)理化学研究所と富士通(株)が共同で開発を進めている次世代スーパコンピュータ(愛称:「京(けい)」).世界最速を目指した「京」の開発は平成18年度にスタートした.既にシステムの設計と試作評価が完了し,平成22年度からは本体の製作が始まっている.同年10月には神戸市のポートアイランドにある理化学研究所計算科学研究機構の施設に最初の計算機筐〔きょう〕体〔たい〕が搬入され,その後も平成24年6月のシステム完成に向けて順調に作業が進んでいる.本稿では,完成時において世界最高レベルの演算性能をもち,ナノサイエンスやライフサイエンスをはじめとする幅広い分野での利活用が期待されている京速コンピュータ「京」の概要とその利用を紹介する.

  • 松岡 聡
    2011 年 80 巻 7 号 p. 579-584
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    旧来のスーパコンピュータは「電力性能比を犠牲にしてまでもともかく高速なマシンを」という設計思想であったが,今や全く逆転し,「普通のコンピュータより更に省エネ度を高める」のが設計の最大目標となっている.それは,過去25年間スーパコンピュータの性能進化が「ムーアの法則」を超える速度で進んでいたが,その主要因となる超並列化により,マシンが年々実質的に大きくなっており,大幅な省電力化を行わないと性能向上のペースを今後保てないからである.本稿では,我々のスーパコンピュータにおける省電力化の取り組みをプロジェクト「JST-CREST ULP-HPC」のコンテクストで紹介し,その成果の具現化である2010年11月稼働のTSUBAME2.0で実際の数値を示す.TSUBAME2.0は我が国初のペタフロップススーパコンピュータであるが,2010年11月のスーパコンピュータの省エネランキングであるThe Green 500において,運用スーパコンピュータとしては世界一位であると認定された.

  • 中島 研吾
    2011 年 80 巻 7 号 p. 585-589
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    本稿では現在,東京大学で進められている大規模並列シミュレーションプログラムを開発するための体系的教育プログラム「学際計算科学・工学人材育成プログラム」について述べる.学部,大学院,社会人向けの教育カリキュラム,「学際計算科学・工学」研究の中核をなす並列シミュレーションコードの開発支援環境(ppOpen -HPC)整備について説明する.

最近の展望
  • 追永 勇次
    2011 年 80 巻 7 号 p. 590-593
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    次世代スパコン「京」は世界最先端の100万コアクラスの超並列計算を実現するスーパコンピュータである.100万並列の実効性能を得るには,過去のハードウェア,ソフトウェアを根本的に見直す必要がある.「京」システムでは,米国動向も考慮し,並列計算モデルからノード間同期,データ転送,OS,並列ファイルシステム,ソフトウェア開発ツールに至るまで一新した.「京」システムはハードウェアの開発を完了し,2012年の完成に向けて現在建造中である.本稿では,「京」システムのさまざまな超並列技術の中でも特にスケーラビリティを高める技術を解説する.

  • 宮本 明
    2011 年 80 巻 7 号 p. 594-597
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    コンピュータの進歩とともに,永年実験的研究が主体であったもの作りの分野でも,新しい化学,コンピュータ化学が生まれてきている.それを,産業革新のための新しい学問,強力な手法にまではぐくむことが重要である.原子・分子レベルの計算手法に加え,メソ・マクロレベルのシミュレータを開発することにより,製品レベルの予測も可能となる.さらに,電気伝導,熱伝導,摩擦・機械強度,発光・吸光,化学反応,電気化学反応,光化学反応,プラズマ反応などマルチフィジックスシミュレーション手法を開発することにより,多彩な産業分野への応用,産学連携の道が開ける.

研究紹介
  • 宮本 良之
    2011 年 80 巻 7 号 p. 598-601
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    フェムト秒レーザーによるグラファイトやカーボンナノチューブを利用した材料加工技術を,計算機シミュレーションから提案した.パルス幅10fsから45fsのレーザー照射によるグラファイト表面からのグラフェン剥〔はく〕離〔り〕や,パルス幅5fs以下の高輝度レーザー照射によるカーボンナノチューブに内包した分子の分解が期待でき,実験的な検証を待ちたい.このようなシミュレーションは,電子の時間発展を時間依存密度汎関数理論に基づき量子力学的に数値計算しながら分子動力学計算を行うことで実現し,高速プロセッサを並列計算できる地球シミュレータを利用することで初めて実行可能となった.

  • 臼井 英之
    2011 年 80 巻 7 号 p. 602-605
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    惑星間宇宙航行システムとして提案されている磁気プラズマセイル(MPS)は,宇宙機の周辺に人工的にダイポール磁場を作り,それをプラズマ噴射で広範囲に展開させ,太陽風を受け止めることにより推力を得る.ダイポール場と太陽風プラズマの相互作用や衛星における推力評価を行うには,マルチスケール的な定量解析が不可欠である.このため,本研究では,適合格子細分化法(AMR)を用いたマルチスケール粒子シミュレーション手法の新規開発を行っている.現在,そのプロトモデルが完成し,プロセス並列化チューニングによる高速化を目指している.本稿では,マルチスケール粒子シミュレーション並列化や人工ダイポール磁場と太陽風の相互作用シミュレーションについて紹介する.

  • 高橋 桂子
    2011 年 80 巻 7 号 p. 606-609
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    温暖化が進行する中,気候変動現象が日々の気象にどのような影響を与えるかについての予測には,異なる時空間スケールを扱うことが可能なシームレスシミュレーションが必要である.大気海洋結合モデルMSSGは気候変動現象と気象とのシームレスな相互関係を扱うことができる超高速シミュレーションコードである.本稿では,シームレスシミュレーションの重要性を紹介するとともにその可能性と,主に大気現象に焦点を当て,MSSG-Aによる再現・予測シミュレーション結果から,高解像度,計算性能,雲の生成過程のモデル化の重要性を紹介する.

  • 姜 志姈, 萩原 陽介, 舘野 賢
    2011 年 80 巻 7 号 p. 610-614
    発行日: 2011/07/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    生命のはたらきの基盤は,タンパク質やDNA,RNAなどの生体高分子の相互作用と反応にある.生体高分子の精密な立体構造と電子構造に基づき,重要な生体反応の詳細な機構を解明するために,筆者らは理論解析技術の開発とそれらを実装したシステムの構築,およびその応用を進めている.量子力学および古典理論双方のハミルトニアンを組み合わせることによって,周囲の溶媒水分子などもあらわに取り入れた巨大な生体高分子系の全体を,理論的に高精度に取り扱うことが可能となる.さらに分子動力学計算と組み合わせて計算することにより,生体反応の動力学的機構を解析できる.本稿では,こうした研究の最近の重要な進展について述べる.

基礎講座
feedback
Top